(128)「坂」 体がひっくり返る坂道
年内にも内閣告示される改定常用漢字表に新しく加わる予定になっている文字に「阪(はん)」(さか)と「崖(がい)」(がけ)があります。この「阪」「崖」のいずれにも「厂(かん)」の形がふくまれていることが分かりますか?

この「厂」は急な坂道や崖を表す字形です。この「厂」をふくんでいる字はたくさんあります。その代表的な漢字を何回か紹介しましょう。
まず「反」です。これは「厂」と「又(また)」を合わせた形。「又」は何度か説明していますが、手を表す字形です。
つまり「反」は急な崖に手をかけて、崖を登ろうとする行為(こうい)を表しています。急な崖をよじ登ろうとすると、体が後ろにひっくり返るという意味の文字です。そんな急な傾斜のある地形のところを「坂」と言います。
このように急な坂や崖の上は聖なる所でした。「阪」の「
(コザト)」は神様が天と地を昇(のぼ)り降りする階段(または梯子(はしご))です。だから「阪」は神聖な地域の急坂のことです。これに対して「坂」は一般(いっぱん)的な坂のことです。
「崖」は「山」「厂」「圭(けい)」を合わせた字。この場合の「圭」は土が重なってとげとげしくなった場所のこと。つまり山すそに土が荒々(あらあら)しく重なって崖のようになった所で「がけ」の意味です。
紹介したようにこのような崖の上は神様がいる聖なる場所でした。その崖(厂)に手(又)をかけて登る行為は神に「叛逆(はんぎゃく)」(そむきさからう)する行為で、「叛逆」の「叛」に「反」の字形があるのもこのためです。
また「反」の字に「そむく」という意味があるのもこのためです。
最後にもう一つ「反」をふくむ文字を紹介しましょう。それは「返」です。崖に手をかけて登る「反」が多くの場合「そむく」意味に使われるようになったので、「かえる」「もとにかえる」意味の字として、道を行く意味の「
(シンニュウ)」をつけた「返」が使われるようになりました。(共同通信編集委員 小山鉄郎)

小山鉄郎(こやま・てつろう)1949年群馬県生まれ。共同通信社編集委員兼論説委員。白川静さんが理事長を務めていた国の認定NPO法人・文字文化研究所理事を2009年7月まで務めた。著書に白川静文字学をやさしく紹介した「白川静さんに学ぶ 漢字は楽しい」「白川静さんに学ぶ漢字は怖い
」(いずれも共同通信社刊)などがある。
