(11)「歩」 左右の足をかいた字
これまで「手」や「人」に関連した漢字について紹介(しょうかい)してきましたので、今度は「足」に関係した漢字についてです。
「足」についての漢字の基本は「止」です。「止」は足跡(あしあと)の形をそのままかいた漢字です。この「止」がもともとの「あし」を意味する文字でした。でも「止」が次第に「とまる」の意味に使われだしたので「足」の字が作られました。
「足」は「止」に「口」を加えた字形です。この場合の「口」は神への祝いの祝詞(のりと)をいれる器「サイ」のことではありません。この「口」は膝(ひざ)の関節の皿のことです。
「止」に膝の皿の形「口」を加えて「足」の字を作ったのですが、足に関連した漢字の基本はあくまでも「止」です。
例えば「歩」という文字は左右の足をかいた字形です。古代文字を見ると分かりますが、「止」に、さらに左右逆の「止」をもう1つ加えて、左右の足を示して「あるく」意味になったのです。
では「走」はどんな漢字でしょうか。これも古代文字のほうが、ずっと分かりやすいです。現代の字形は「土」と「止」を合わせた形です。でも古代文字で「土」に相当する部分を見てみると、両手を振(ふ)っている人の姿です。それに、足を示す「止」を加えて「はしる」意味となったのです。
漢字は非常に体系的に作られた文字です。そのことを「先」の字を例に説明したいと思います。
「先」の古代文字の上部をよく見てください。「止」の古代文字形をしていますね。前回「兄」という漢字を説明する際に、人を表す文字「儿(じん)」の上に、1つの字形をのせ、その機能を強調して漢字を作ることを説明しました。「見」「兄」「光」などがそうです。
この「先」も「儿」の上に「止」(足)をのせた漢字なのです。つまり人の上に足をのせて「ゆく」意味を強調。そこから「さき」に行く意味となったのです。(共同通信編集委員 小山鉄郎)

小山鉄郎(こやま・てつろう)1949年群馬県生まれ。共同通信社編集委員兼論説委員。白川静さんが理事長を務めていた国の認定NPO法人・文字文化研究所理事を2009年7月まで務めた。著書に白川静文字学をやさしく紹介した「白川静さんに学ぶ 漢字は楽しい」「白川静さんに学ぶ漢字は怖い
」(いずれも共同通信社刊)などがある。
