(121)「倍」 実がわれて数が多くなる
米国の陪審(ばいしん)制度などを参考にした裁判員制度が始まり、「陪審員」の「陪」という字をよく見かけるようになりました。

裁判員制度は重大な犯罪を裁く際に実施(じっし)されますので、殺人事件の時には解剖(かいぼう)に関する資料にふれることもありえます。
今後、この制度がさらに国民に受け入れられて、対象にする事件が広がれば、裁判員裁判の数が何倍に増えたりすることもあるかもしれません。
さて今回はこの陪審員の「陪」、解剖の「剖」、何倍の「倍」などにふくまれる「立」「口」を合わせた字形について紹介したいと思います。
「立」「口」を合わせた字形は草木の実が熟し、われようとしている形です。それを「
(刈のメを取る(リットウ))」(刀)で二つに分けることが「剖」。二つにするので「わける、さく、ひらく」の意味となりました。
われると当然、数が多くなりますが、人の行為(こうい)によって、ものをわると数が多くなります。それを「倍」と言います。
そして陪審員の「陪」の「
(阿の可を取る(コザト))」は神様が天と地の間を昇降(しょうこう)する階段のこと、またはその神様の階段が置かれた神聖な場所のことです。「陪」は、その神聖な席に多くの人が同席することです。
目上の人の側に多くの人が同席するのが「陪席」。そこから「陪」に「はべる」意味があります。「陪審」とは裁判に法律の専門家ではない一般人(いっぱんじん)が陪席することです。
さらに「賠償(ばいしょう)金」などの「賠」の「貝」は子安貝のことで財産のこと。「賠」の右側は、果実がふくらみ始めて、われるので倍加する意味です。人に与(あた)えた損害をつぐなう時は、いくらかお金を加算して支払(しはら)ったようです。それが「賠」です。
栽培(さいばい)の「培」の右側は花の実がふくらむこと。そこから倍加する、増加する意味があります。この「培」の場合は土を上に重ねるので「つちかう」という意味。コーヒーなど「焙煎(ばいせん)」の「焙」は火に「あぶる」とふくらむことです。(共同通信編集委員 小山鉄郎)

小山鉄郎(こやま・てつろう)1949年群馬県生まれ。共同通信社編集委員兼論説委員。白川静さんが理事長を務めていた国の認定NPO法人・文字文化研究所理事を2009年7月まで務めた。著書に白川静文字学をやさしく紹介した「白川静さんに学ぶ 漢字は楽しい」「白川静さんに学ぶ漢字は怖い
」(いずれも共同通信社刊)などがある。
