(9)「夫」 かんざしを挿した男性
人の正面形が「大」であることを「器」という漢字を説明した回で述べました。今回は、その「大」を字形にふくんでいる文字を紹介(しょうかい)します。
まず「大」のてっぺんに「一」を加えた「天」の字から。「大」は人が手足を広げて立っている姿を正面からかいた形です。その人間に「大きな頭」を加えたものが「天」の字形なのです。
人間の体の一番上にある頭部を意味する「天」から、空の「天」の意味になりました。例に挙げた「天」の古代文字は甲骨(こうこつ)文字ですが、時代が下ると、この大きな頭の部分が1本の横線になっていき、現在の字形に近づいていきます。
「大」のようにてっぺんに「一」を加えるのではありませんが、やはり「一」を加えるのが「夫」です。加えられる「一」は、まげに挿(さ)したかんざしです。結婚(けっこん)式の際に、まげにかんざしを挿して正装している男性の正面形をかいたのが「夫」という字です。
「夫」という文字を紹介したので、ついでに「妻」という字についても述べておきましょう。
ほうき星、彗星(すいせい)の「彗」の字の下部は片仮名の「ヨ」の真ん中の横棒が右に突(つ)き抜(ぬ)けたような字形になっています。この「彗」の下部の字形はフォークの形をしています。これは手の形、「又(また)」(右手の形)と同じ字形で、「手」の意味です。
「妻」という字は、その「彗」の下部と同じ字形と、上部の「十」の字形、さらに下部の「女」を合わせた形になっています。わかりますか?
この上部の「十」は髪につけたかんざしです。3本のかんざしを髪(かみ)に挿す姿が「十」の字形。「彗」の下部と同形は「手」のことですから、これらを合わせて、女の人が髪に挿したかんざしを手で整えている姿が「妻」という漢字なのです。
これは結婚式の際に正装した女性の姿です。そこから「つま」の意味となりました。(共同通信編集委員 小山鉄郎)

小山鉄郎(こやま・てつろう)1949年群馬県生まれ。共同通信社編集委員兼論説委員。白川静さんが理事長を務めていた国の認定NPO法人・文字文化研究所理事を2009年7月まで務めた。著書に白川静文字学をやさしく紹介した「白川静さんに学ぶ 漢字は楽しい」「白川静さんに学ぶ漢字は怖い
」(いずれも共同通信社刊)などがある。
