(8)「久」 永久の人になる
「人」という字は横向きの人間をかいた象形文字です。
この横向きの「人」を後方に少し倒(たお)した文字が「尸(しかばね)」という字です。この字は学校では習わないと思いますが、「屍(しかばね)」という字の元の形です。人が死体となり、倒れることを表した文字です。
この後方に倒れる死体を後ろから木で支えている形が「久」という文字です。古代文字を見ると「人」が後ろに倒れて、木の棒で支えている字形であることが分かってもらえると思います。
人間が死ぬと「永久の人」「久遠(くおん)の人」になると考えて、「ひさしい」の意味が生まれました。これは普通(ふつう)の考え方とは少し違(ちが)いますね。死体はやがて、くち果てて消えていくわけですから、本来は「永久」の意味になるはずがありません。
でも古代中国人たちは消滅(しょうめつ)してしまう人の死体から「永久なもの」「不滅なもの」というものを見いだそうとしました。彼(かれ)らが死の中に積極的な意味を見いだそうとしたことに深い思想を白川静さんは感じていました。
この「漢字物語」の別の回に詳(くわ)しく紹介(しょうかい)するつもりですが、「真」(眞=旧字)という字も、行き倒れの人を表す漢字です。その行き倒れになった人から「真実」「真理」という意味を古代中国人は生みだしました。ここにも似たような考え方がありますね。行き倒れで死んだ人の姿を、永久に実在するものの意味に変えていく考え方です。
さてその「久」という字を「匚」の中に入れて「木」を加えた文字が「柩(ひつぎ)」です。これも学校では習わないかもしれませんが、関連して覚えておくと忘れません。このように漢字をつながりの中で理解できるのが白川文字学の特徴(とくちょう)です。
「匚」は箱のことです。「木」偏(へん)ですから、木製の箱です。つまり「永久の人」を「木」の「箱」に納めた姿です。死体を納める木箱「ひつぎ」のことです。(共同通信編集委員 小山鉄郎)

小山鉄郎(こやま・てつろう)1949年群馬県生まれ。共同通信社編集委員兼論説委員。白川静さんが理事長を務めていた国の認定NPO法人・文字文化研究所理事を2009年7月まで務めた。著書に白川静文字学をやさしく紹介した「白川静さんに学ぶ 漢字は楽しい」「白川静さんに学ぶ漢字は怖い
」(いずれも共同通信社刊)などがある。
