(7)「北」 王の背中が向く方角
「大」という字は人間を正面から見た姿であることを前回、述べました。そのつながりから、今回は「人」に関連した文字を紹介(しょうかい)しましょう。
この「人」という字は人が立っている姿を横から見た形です。1画目が頭と手、2画目が胴(どう)と脚(あし)のことです。「人」が関連した漢字はこの「人」を2つ並べたり、逆向きにしたりして、いろいろな字を作っていきます。
まず「従」という字を説明しましょう。この字の旧字は「從」で、そのポイントは人が2人並んだ「从」の部分です。もともと「从」だけで「従」の意味の文字でした。
この「从」と「彳」と「止」を合わせたのが「從」です。「彳」は十字路の左半分を書いた字形。「止」は足の形で、「彳」と「止」で「道を行く」という意味です。これと「从」を合わせて、前の人の後について、人が歩いていく姿の文字です。そこから「したがう」意味になりました。
「從」は左向きの2人ですが、逆に右向きに2人が並んでいる文字が「比」です。「從」と「比」の古代文字をくらべると2人が逆向きなのがわかると思います。2人並んでいるので「くらべる」の意味になりました。
2人が左向きに並ぶと「従」、右向きは「比」。ならば背中合わせになると何でしょう? それが「北」という字です。
古代文字の形を見れば、人が背中合わせになっているのがわかると思います。ですから、この文字のもともとの意味は「背中」のことでした。
「天子は南面す」という言葉があります。中国では王は儀式の際には南に向かって座りました。すると王の背中は北を向きます。そこから「北」は方角の「きた」を意味するようになりました。
そして「北」がもっぱら方角の「きた」の意味に使われるようになったので、「北」に肉体を表す「月」(にくづき)が加えられて、「背」という文字が新しく作られたのです。(共同通信編集委員 小山鉄郎)

小山鉄郎(こやま・てつろう)1949年群馬県生まれ。共同通信社編集委員兼論説委員。白川静さんが理事長を務めていた国の認定NPO法人・文字文化研究所理事を2009年7月まで務めた。著書に白川静文字学をやさしく紹介した「白川静さんに学ぶ 漢字は楽しい」「白川静さんに学ぶ漢字は怖い
」(いずれも共同通信社刊)などがある。
