(96)「雲」 雲に頭を隠した竜
「魂魄(こんぱく)」という言葉があります。「たましい」を意味する熟語ですが、その「魂」も「魄(はく)」も「たましい」の意味です。でも「魂」と「魄」とは少し意味が異なります。

「魂気は天に帰し、形魄は地に帰す」という言葉があるのですが、なぜ「魂」は天に帰り「魄」は地に帰るかを紹介(しょうかい)しながら、「魂」と「魄」の違いを説明しましょう。
まず「魂」と「魄」とに共通してある「鬼(おに)」の説明からです。古代文字の「鬼」は大きな頭をした人の形です。大きな頭は、この世の人とは異なる存在であることを表しています。古代中国では人は死んだら鬼になると考えられていました。
「鬼」とは人が死後に「たましい」となって存在する霊(れい)の姿で、これを「人鬼(じんき)」と言います。
反対に自然の現象や事物をあがめる自然神が「神」です。「鬼神」という言葉もありますが、これは「人鬼」と「自然神」のことで、いずれもこの世のものとは異なる超人(ちょうじん)的な力を持つものと考えられていたのです。
もう一度、古代文字の「鬼」を見てください。今の字形にある「ム」はありません。「ム」は後に加えられたものです。「ム」は「云(うん)」の省略形と考えられますが、その「云」をさらに「鬼」に加えたのが「魂」です。
この「云」は「雲」の元の字形です。古代文字の「云」は竜(りゅう)が頭部を 雲に 隠(かく)して、しっぽだけを出している姿。つまり「云」は雲状なものを意味します。その「云」に気象現象を表す「雨」を加えた文字が「雲」です。もともと「云」だけで「くも」の意味でした。
ですから「魂」とは人が亡くなると雲状のものとなって辺りを浮遊(ふゆう)し、やがて天に帰っていくことを表す文字なのです。
これに対して「魄」の「白」は前回も紹介したように白骨化した頭蓋骨(ずがいこつ)のことです。つまり「魄」は人が亡くなった後、骨となって地上に残ることです。だから「魂気は天に帰し、形魄は地に帰す」のです。(共同通信編集委員 小山鉄郎)

小山鉄郎(こやま・てつろう)1949年群馬県生まれ。共同通信社編集委員兼論説委員。白川静さんが理事長を務めていた国の認定NPO法人・文字文化研究所理事を2009年7月まで務めた。著書に白川静文字学をやさしく紹介した「白川静さんに学ぶ 漢字は楽しい」「白川静さんに学ぶ漢字は怖い
」(いずれも共同通信社刊)などがある。
