(5)「然」 焼いた肉のにおいが大好き
「犬」という字は実際の犬の姿をそのまま書いた象形文字です。祈(いの)りや願いの犠牲(ぎせい)として「犬」がささげられたので、字形中に「犬」を含(ふく)む漢字は多くあります。中にはかなり残酷(ざんこく)なこともありますが、3000年以上前の中国の話です。今の価値観で考えてはいけません。
最初は鼻が利く「犬」の紹介(しょうかい)から。「犬」に「人」を加えたのが「伏(ふく)」です。これは王様などの墓を造る際に墓に変な虫や魔物(まもの)、敵が忍(しの)び寄らないように墓の下の地中に犬と武人を一緒(いっしょ)に埋(う)めたことをあらわす文字です。「伏」の「人」は武装した兵士のことです。
魔物や敵に、鋭(するど)い鼻で最初に犬が気付き、武人がそれをうち破る役目だったのです。殷(いん)の時代の古い墓が発見発掘(はっくつ)されて、実際に犬と武人が一緒に墓の下に埋められていたことが分かっています。地中に埋められることから「伏」は地に「ふす」の意味となりました。
「状」(
)という字も、いけにえとしての「犬」を含む漢字です。
城壁(じょうへき)などを造るときに版築という工法があります。板と板の間に土を入れて、杵(きね)でつき固める工法です。それに使う板の形が旧字体「
」の偏(へん)「爿」です。この城壁を造る際にも犬を犠牲にささげ、城壁がちゃんとできることを祈ったのです。その工事の進み具合、状況(じょうきょう)のことから物や人の形状の意味となりました。
「犬」を含む字で最も印象的なのが「然」です。これは「犬」「月」「
」でできています。「月」は「にくづき」で「肉」のこと。「
」は「火」です。神様は犬の肉を焼いたにおいが大好きでした。「犬」の「肉」を「火」で燃やして、そのにおいを天上の神様に届ける字が「然」です。
だから「然」は「もやす」という意味で、「燃」の元の字でした。しかし「然」が次第に「しかり」などの意味に使われるようになり、さらにもう1つ「火」を加えて「燃」という文字が作られたのです。(共同通信編集委員 小山鉄郎)

小山鉄郎(こやま・てつろう)1949年群馬県生まれ。共同通信社編集委員兼論説委員。白川静さんが理事長を務めていた国の認定NPO法人・文字文化研究所理事を2009年7月まで務めた。著書に白川静文字学をやさしく紹介した「白川静さんに学ぶ 漢字は楽しい」「白川静さんに学ぶ漢字は怖い
」(いずれも共同通信社刊)などがある。
