(91)「永」 合流して勢いよく流れる水
水が分かれて流れるさまが「派」という字であることを、前回紹介(しょうかい)しました。この「派」とペアになる字が「永」という漢字です。今回はこの「永」に関連した一連の文字を紹介しましょう。

水が分流する「派」とは反対に、「永」は水が合流して勢いよく流れるところを表した字で、水の流れの長いことを言います。水の流れが長いことから、すべての「ながい」意味となりました。
長い水の流れに乗るようにして、水を渡(わた)ることを「泳」と言います。そこから「およぐ」意味となったのです。
また水の流れが合流して、流れが長いように、強く長く声をのばして漢詩や和歌を歌いあげることを「詠(えい)」と言います。そこから「うたう」の意味となりました。詩歌を作る意味にも使います。
「詠嘆(えいたん)」は声に出して感動することですが、もともとは声を長く引かせて歌う意味です。日本語でも「詠む」と書いて「ながむ」とも読み、声を長くひいて詩歌を歌うことの意味です。
学校で学ぶ漢字ではないので、理解するだけでいいと思いますが、水が合流して、その水の勢いがながく下流におよぶことを「漾(よう)」といいます。
中国の晩唐(ばんとう)時代を代表する詩人に杜牧(とぼく)という人がいます。
その杜牧が長江最大の支流の川のほとりにたたずみ詠った「漢江」という詩は「溶溶(ようよう)漾漾(ようよう)白鴎(はくおう)飛(とぶ)」と始まっています。豊かにたゆたい流れる漢江。そのゆらゆらゆれる水面を真っ白な鴎(かもめ)が飛んでゆくという意味です。
このように「川が長くたゆたい、ゆらゆらゆれるさま」が「漾」です。
人名などに使われることの多い漢字「昶(ちょう)」も「永」をふくむ文字ですが、これはまさに「日の長いこと」の意味です。
そこから「のびる」とも「ひさし」とも読みます。「のびる」ので「通る」の意味もありますし、「あきらか」の意味もあります。(共同通信編集委員 小山鉄郎)

小山鉄郎(こやま・てつろう)1949年群馬県生まれ。共同通信社編集委員兼論説委員。白川静さんが理事長を務めていた国の認定NPO法人・文字文化研究所理事を2009年7月まで務めた。著書に白川静文字学をやさしく紹介した「白川静さんに学ぶ 漢字は楽しい」「白川静さんに学ぶ漢字は怖い
」(いずれも共同通信社刊)などがある。
