(3)「際」 人と神が接する場所
大切なことはどんなことでも、神に祈(いの)り、神の声を聞いて決めるのが古代中国の社会でした。ですから神への祭りはとても大事でした。
そこで「祭」という字ですが、これはどのようにしてできているのでしょうか? 今回は、そのことの説明からです。
「祭」は「月」と「又(また)」と「示」でできた文字ですね。このうちの「又」はこれまでも説明しましたが、「手」の形。特に「右手」の形です。
「月」は夜空の月ではなく、1枚の肉を表す「にくづき」です。「月」の字形内にある2つの横線は肉の筋の部分。
そして「示」は神へのお供えものを乗せるテーブルの形です。古代文字も現在の字形も大きな違(ちが)いはありませんが、「示」という字形をテーブルの形だと思って見つめてみると、なるほどそのように感じられてくると思います。
ですから、この「祭」は神へのささげものを載(の)せるテーブル「示」の上に、お供えの「肉(月)」を「右手」で置いて、神へのお祭りをするという意味の漢字なのです。
こうやって「祭」という字を覚えたら、一生忘れません。そしてそこから関係する漢字を簡単に理解していくことができます。これが白川静さんの文字学の特長です。
「際」という字は「こざとへん」(
)に「祭」を加えた文字です。この「
」は古代文字形を見ると分かりやすいですが、神様が天上と地上の間を昇降(しょうこう)する階段(または、はしご)です。この階段を使って神様が降りてくる土地に、テーブルを置いて、その上に右手で肉を載せ、祭りをする字が「際」です。
そこは神と人が接する場所。「際」は「きわ」という意味ですが、それは神と人との「きわ」のことでした。神のいる場所ですから、人はそれ以上に進むことができません。人間が至れる限界、際限の意味もそこから生まれました。(共同通信編集委員 小山鉄郎)

小山鉄郎(こやま・てつろう)1949年群馬県生まれ。共同通信社編集委員兼論説委員。白川静さんが理事長を務めていた国の認定NPO法人・文字文化研究所理事を2009年7月まで務めた。著書に白川静文字学をやさしく紹介した「白川静さんに学ぶ 漢字は楽しい」「白川静さんに学ぶ漢字は怖い
」(いずれも共同通信社刊)などがある。
