(80)「層」 重なりをなしている建物
「酋(しゅう)」の字は「酒」の元の字形である「酉(ゆう)」の上に酒の香(かお)りが立っている「八」が加わった文字であることをこれまでに説明してきました。

この「八」は、酒の香りが立ち上るだけの意味に使われるわけではありません。蒸気が立ち上る場合や、神様が来ていて神気が立ち上る場合もあります。ここでは蒸気が立ち上っている文字の例をいくつか紹介(しょうかい)したいと思います。
一番分かりやすい例は「曾(そう)」(曽)でしょう。この「曾」はコメなどを蒸す際に使用する「甑(こしき)」の上に蒸気が出ている姿の象形文字です。
この「甑」は字の形にもあらわれていますが、もとは「瓦(かわら)」でできた円形のものでした。その底には蒸気を通す穴が開いていました。木わくの底にすのこをしいて蒸(む)す、今の蒸籠(せいろう)の原形です。
「甑」の元の字が「曽」(曾)です。重ねて蒸気を通して蒸す道具ですから、この「曾」をふくむ文字には「重ねたもの」の意味があります。
麻生太郎前首相の読み違えで話題となった「未曾有(みぞう)」という言葉にも「曾」は使われますが、これは「未(いま)だ曾(かつ)て有らざるなり」とのこと。このように「曾」を「かつて」などの意味に用いるのは字の音だけを借りた仮借(かしゃ)という用法です。
「層」という字にも「曽」(曾)がふくまれています。これはいくつものものがかなり「層」をなしていることです。「層」のもともとの意味は家が重なりをなしている建物のこと。高層ビルとは単に高いビルという意味ではなくて、層がいくつも高く重なっているビルのことです。
さらに「増」にも「曽」(曾)が含まれています。これは「土」と「曽」(曾)を合わせた字形で、土を積み重ねることから「ふえる」「ます」の意味になったのです。
さらに「贈呈」「寄贈」の「贈」も同じ系統の文字。この「贈」の「曽」(曾)も「重なったもの」の意味で、余分に贈ることです。(共同通信編集委員 小山鉄郎)

小山鉄郎(こやま・てつろう)1949年群馬県生まれ。共同通信社編集委員兼論説委員。白川静さんが理事長を務めていた国の認定NPO法人・文字文化研究所理事を2009年7月まで務めた。著書に白川静文字学をやさしく紹介した「白川静さんに学ぶ 漢字は楽しい」「白川静さんに学ぶ漢字は怖い
」(いずれも共同通信社刊)などがある。
