(2)「最」 最も敵を討ち取った者
古代中国では神への祈(いの)りが大切でした。前回紹介(しょうかい)した「右」や「左」も、神への祈りを表す漢字です。でももう1つ大事なものがありました。それは戦争、軍事です。ですから漢字には戦争に関係した文字がたくさんあります。
「取」という漢字も戦争に関連したものです。「取」は「耳」と「又(また)」でできています。「又」は「友」の文字のときにも紹介しましたが「手」を示す字形です。古代文字を見れば、そのことがよく分かります。
「取」の甲骨(こうこつ)文字の左側にかかれている少しいびつな三日月のような形が「耳」です。この「取」は左耳を手で切り取る形の文字なのです。
戦争で討ち取った証拠(しょうこ)に、敵の左耳を切り取って持ち帰り、その数で功績を数えたのです。
戦場でいっぱい左耳を切り取る兵士がいたのでしょう。そのことから、すべての「もの」や「こと」について「とる」意味になりました。
「最」は字形に「取」を含(ふく)んだ漢字です。「最」の上の「曰」の部分は、もともとは「
(ぼう)」という字で、頭巾(ずきん)の形です。例えば帽子(ぼうし)の「帽」という字の旁(つくり)(文字の右部分)の「曰」も「
」で、頭巾です。深く頭巾を被(かぶ)り、目だけ出している形の文字が「帽」です。
そこで「最」の古代文字を見てください。頭巾が袋(ふくろ)のようになって「取」を覆っていますね。
きっと「左耳」を取りすぎて、手に持ちきれなくなり、耳を袋に入れて持ち歩いたのでしょう。このように左耳を最高に集めた功績第1の者を「最」といいました。
「最」にもう1つ「手」を表す「
」を加えた「撮(さつ)」も「取」が関連した文字です。
「撮」は手柄の証拠として戦場で切った左耳を「つまむように取る」というのがもともと意味でした。現代では映画や写真を撮影(さつえい)するというような意味で使われています。(共同通信編集委員 小山鉄郎)

小山鉄郎(こやま・てつろう)1949年群馬県生まれ。共同通信社編集委員兼論説委員。白川静さんが理事長を務めていた国の認定NPO法人・文字文化研究所理事を2009年7月まで務めた。著書に白川静文字学をやさしく紹介した「白川静さんに学ぶ 漢字は楽しい」「白川静さんに学ぶ漢字は怖い
」(いずれも共同通信社刊)などがある。
