(71)「陸」 テント並べて神を迎える
「五」は神様への祈(いの)りの祝詞(のりと)を入れる器「口」(サイ)を守るための木の蓋(ふた)の形。でもその「五」の音だけを借りる仮借(かしゃ)という用法で、数字の「五つ」の意味となったことを前回説明しました。

せっかくですから数を表す文字をまとめて紹介(しょうかい)しましょう。まず「一」「二」「三」は説明も要らないでしょう。数を数える時に使う算木(さんぎ)を横に置いた形を表しています。でも「一」「二」「三」は文字を変更(へんこう)しやすいので、変更しにくい「壱(いち)」「弐(に)」「参」を代わりに使うことが昔から行われました。
例えば「二」の代わりに使う「弐」ですが、この「弐」の旧字「貳」は「戈(ほこ)」と「二」と「貝」を合わせた字です。このうち「貝」の字形部分は、祭りに使う青銅器製の器「鼎(かなえ)」の省略形です。
その「鼎」に刻まれた文章を「戈」で削(けず)り変えてしまうことを意味する字が「貳」です。また「貳」には「戈」で「鼎」に刻し、その文章のコピーを作る意味もあります。字形内の「二」はコピーを作る意味で、そこから「ふたたび」「ふたつ」の意味があるのです。
原文を改変する意味の「弐(貳)」が、改変を防ぐ字に使われているのは面白いですね。
「四」は甲骨(こうこつ)文字では横に四本の算木を置いた字形でした。でも算木の線の数が紛(まぎ)らわしい場合もあるので、「
(し)」という字の音だけ借りて、その省略形である「四」で表すようになりました。
「六」は古代文字のほうが分かりやすいですが、これはテントの形です。でも「六」をテントの意味に使う用法はなく、これも仮借の用法で「六つ」を示します。
「六」がテントの形であることを示す字が「陸」です。旁(つくり)の「
(りく)」はテントを二つ重ねた形です。「
(コザト))」は神様が天から降りてくる階段の形ですから、神が降りてくる所にテントを並べて神を迎える土地のことです。そこから「りく」の意味になりました。(共同通信編集委員 小山鉄郎)

小山鉄郎(こやま・てつろう)1949年群馬県生まれ。共同通信社編集委員兼論説委員。白川静さんが理事長を務めていた国の認定NPO法人・文字文化研究所理事を2009年7月まで務めた。著書に白川静文字学をやさしく紹介した「白川静さんに学ぶ 漢字は楽しい」「白川静さんに学ぶ漢字は怖い
」(いずれも共同通信社刊)などがある。
