(1)「友」 手と手を合わせて誓う
漢字は今から、約3200年前、中国・殷(いん)王朝の王様が、神様と交信するために作った甲骨(こうこつ)文字がルーツです。亀(かめ)の甲羅(こうら)や牛の骨などに文字を刻んで、神様の判断を占ったのが甲骨文字です。その後、文字を青銅器に鋳込(いこ)んだ金文という文字も生まれました。
この甲骨文字や金文など、漢字の古代文字の精密な研究から漢字の古里・中国にもない新しい漢字の体系を作りあげて文化勲章(くんしょう)を受けたのが、漢字学者の白川静さん(2006年死去)です。白川さんの研究にそって、これから漢字物語を書いていきたいと思います。
まず「右」と「左」という漢字です。「右」は片仮名の「ナ」に似た形と「口」でできています。「ナ」は古代文字ではフォークのような字形。これは「手」の形です。
「口」は耳口の「くち」ではなくて、神様へのお祝いの祝詞(のりと)をいれる器の形です。「口」の字形が「くち」ではなくて、祝詞を入れる器「サイ」であることを明らかにしたのが、白川さんの漢字学の最大の発見であると言われています。
その「サイ」を「手」に持って、神様に祈(いの)る字が「右」です。また「サイ」は右手で持ちましたから、「みぎ」の意味となりました。
では「左」はどうでしょう。やはり「ナ」は「手」です。「工」は神様にのろいをかける呪術(じゅじゅつ)の道具の形です。左手に神への呪術の道具を持って祈る字が「左」です。
そして「又(また)」という字形も「手」の形です。古代文字の形を見てもらうと、「右」「左」の古代文字の「ナ」と同じ形をしているのがわかってもらえると思います。
以上を理解して「友」という字を見ると「ナ」と「又」を合わせた形であることがわかりますね。「ナ」も「又」も「手」のことですから、「友」は手と手を合わせた形。同族の者が手と手を合わせて友愛を誓(ちか)う字が「友」なのです。(共同通信編集委員 小山鉄郎)

小山鉄郎(こやま・てつろう)1949年群馬県生まれ。共同通信社編集委員兼論説委員。白川静さんが理事長を務めていた国の認定NPO法人・文字文化研究所理事を2009年7月まで務めた。著書に白川静文字学をやさしく紹介した「白川静さんに学ぶ 漢字は楽しい」「白川静さんに学ぶ漢字は怖い
」(いずれも共同通信社刊)などがある。
