(67)「結」 しっかり結び守る
白川静さんの漢字学の最大の功績は「口」の字形が耳口の「くち」ではなく、神様への祈(いの)りの祝詞(のりと)を入れる器「サイ」であることを発見、「口」の字形がある漢字を新しく体系づけたことです。

漢字には、この大切な「口」(サイ)を守ろうとする文字がたくさんあります。まず「吉(きち)」から紹介(しょうかい)しましょう。上の「士」は戦士階級の者が地位の象徴(しょうちょう)として持つ小さな鉞(まさかり)の刃(は)の部分です。この鉞の刃には悪いものを清める力があると考えられていました。その鉞の刃を「口」(サイ)の上に置いて祈りの効果を守るのが「吉」です。それで祈りが実現すれば「幸せ」となるので「よい」の意味となりました。
「結」は「吉」をさらに「糸」でしっかり結び守る文字です。「口」の上に「士」を置くので、「吉」には閉じこめる意味があり、結ぶことも元の意味はそこにある力を閉じこめることでした。
次に「詰(きつ)」です。「口」の上に「士」を置くので、旁(つくり)の「吉」には「詰(つ)めこむ」の意味があります。偏(へん)の「言」は「口」(サイ)の上に大きな針である「辛(しん)」を置いて神に誓(ちか)い、誓いを守らない場合は、この針で入れ墨(ずみ)の刑罰(けいばつ)を受けますと神に誓いを立てることです。その誓いと祈りで、よい結果が出るように責め求めるので「つめる、とう」の意味があります。
最後は「頡(けつ)」です。これは学校で学ぶ漢字ではないので、理解するだけで十分ですが、漢字と縁(えん)のある文字なので紹介しておきます。中国伝説上の帝王(ていおう)・黄帝(こうてい)の家臣で倉頡(そうけつ)という人がいます。目が四つあったという倉頡が、鳥や獣(けもの)の爪(つめ)や蹄(ひづめ)のあとを見て初めて文字を作ったといわれています。
旁の「頁(けつ)」は儀礼(ぎれい)に参加している人の横顔。ものが詰まった意味の「吉」には「力のこもった状態」の意味があり、「頡」にはうなじをのばし、頸(くび)を立てた形の意味があります。「頡」とは力をこめ、うなじをのばして簡単には人に頭を屈(くっ)しない人のことです。(共同通信編集委員 小山鉄郎)

小山鉄郎(こやま・てつろう)1949年群馬県生まれ。共同通信社編集委員兼論説委員。白川静さんが理事長を務めていた国の認定NPO法人・文字文化研究所理事を2009年7月まで務めた。著書に白川静文字学をやさしく紹介した「白川静さんに学ぶ 漢字は楽しい」「白川静さんに学ぶ漢字は怖い
」(いずれも共同通信社刊)などがある。
