(8)食草を育てるのが大変 1年中、飛び交う園内
とびらを開けると、むっとする熱気に包まれた。目の前を白い大きなチョウが横切る。あっちにもこっちにも。足元の黒っぽいチョウは、光のかげんで深い青色に見える。東京・多摩(たま)動物公園の昆虫(こんちゅう)生態園。気をつけないと、どれかにぶつかってしまいそうだ。
「これだけのチョウを育てるのは難しいんでしょうね」。担当の細井文雄(ほそい・ふみお)さんに聞くと、意外な答えがかえってきた。

花にとまってみつを吸うオオゴマダラ。日本では最大級のチョウだ=多摩動物公園昆虫生態園
「チョウを育てるより、食草を育てる方が大変なんです」。食草というのはチョウの幼虫が食べる草のこと。大量に食べるうえ、種類によって食草がちがう。ほとんどが野生の植物で育て方のマニュアルもない。
どんな土がいいのか、水やりはどうするか。すべて手探りで始め、さし木したり、つぎ木したりして増やしてきた。
「一番大変なのがアブラムシです。農薬を使ったらチョウの幼虫まで殺してしまう。1匹(いっぴき)ずつ手でつぶしたり、水でふき飛ばしたりするしかありません」。こうして育てた食草の鉢(はち)を園内に置くと、チョウが産卵する。
そのままにしておくとアリやクモ、ハチなどの外敵にやられてしまうので、鉢を回収して幼虫を育て、羽化(うか)したら園内に放す。チョウの寿命は2週間程度。これをくり返すことで1年中、チョウが飛んでいるんだ。
「チョウを増やしすぎると食草が足りなくなる。そのバランスも難しいんです」。園内には1年中育てられる沖縄(おきなわ)のチョウが多い。日本の国蝶(こくちょう)、オオムラサキは?
「ものすごく速く飛ぶので、園内に入れるとガラスにぶつかっちゃうんです」(文・佐々木央、写真・有吉叔裕)

佐々木央(ささき・ひさし)1956年青森県生まれ。共同通信編集委員。社会部で教育問題や少年事件を長く取材してきた。著書に若者の生きづらさを取材した「未来なんか見えない 自傷する若者たち」(共同通信社刊)がある。
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