(86)群れにもどすのに苦労 人に育てられた満ちる
インドオオコウモリがぶら下がっている。コウモリにはこわいイメージがあったけれど、よく見ると、あいきょうがある。マントを着ているような姿もおもしろい。

インドオオコウモリはキツネに似た顔なので英語では「空飛ぶキツネ」と呼ばれる=京都市動物園
京都(きょうと)市動物園で担当する河村あゆみさんによると、えさはリンゴやオレンジ、バナナなど。「ガムのように口の中でくちゅくちゅして果汁(かじゅう)をすい、果肉ははき出します。ちょっとぜいたくです」
生まれたばかりの子どもは足と口で親にしがみつき、おっぱいを飲む。京都市動物園で去年春に生まれたインドオオコウモリのメス「満ちる」は力が弱くて生まれてすぐに親から落ちてしまった。
河村さんの苦労が始まった。ミルクびんに小動物用の人工乳首を付けたが飲まない。布にミルクをしみこませてすわせた。量が少なかったせいか、保育器の中の湿度(しつど)がたりなかったためか、体の水分が不足して弱ってしまったこともあった。
4カ月たってようやくふつうのえさになり、群れにもどした。でも仲間といっしょだと、えさがとれない。「大切に育てたせいか、まわりの気迫(きはく)に負けてしまうんです」
そこで、群れからはなし、まずお年寄りの1頭といっしょにした。次に同じ年生まれのメスもいっしょに。それから群れにもどした。今では、動物園の開園時間は群れにいられるようになった。
満ちるという名前には、生まれた時、弱々しくて心配だらけだったので「元気と幸せに満ちあふれるように」という願いをこめた。
満ちるの1歳(さい)の誕生日、河村さんは動物園のブログにうれしそうに書いている。「これからももっと『満ちる』らしく元気で幸せでいてやぁ!」(文・写真、佐々木央)

佐々木央(ささき・ひさし)1956年青森県生まれ。共同通信編集委員。社会部で教育問題や少年事件を長く取材してきた。著書に若者の生きづらさを取材した「未来なんか見えない 自傷する若者たち」(共同通信社刊)がある。
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