(51)お気に入りの石ころで遊ぶ 日本には1羽だけ
日本ではここ静岡(しずおか)市の日本平(にほんだいら)動物園にしかいないヒゲワシ。それもたった1羽だけだ。
まわりが真っ赤にふちどられたするどい目。頭は白く、胸のあたりの羽根は黄色みがかっている。黒く大きなつばさには、花火が落ちてくるときのように、白い線がきれいに並ぶ。

目もつばさも印象的なヒゲワシ=静岡市の日本平動物園
名前の通り、のど元にはヒゲのような黒い毛がふさふさ。担当の長谷川裕(はせがわゆたか)さんに「ヒゲがあるからこれはオスですか」と聞いた。
「いえ、メスです。オスとメスで大きさや形のちがいがあまりないんです」
週に2日ぐらい、えさなしで絶食させる。意地悪しているんじゃない。
ワシやタカなどの猛禽類(もうきんるい)、ライオンやトラなどの猛獣(もうじゅう)は、自然界ではいつもえさにありつけるわけじゃない。だから動物園でも時々絶食させる。その方が体調がいいんだ。
見ていると、石ころを足でつかんだり、口にくわえたりして、上から落としている。
「お気に入りの石が3つぐらいあるようです。野生では動物の骨やカメを空から落として割って食べるので、それと同じようなことをして遊んでいるんでしょう」
生息地はチベットやインド、ヨーロッパやアフリカの高い山。「自然界でもすごく減っているので、もう日本には来ないかもしれません」と長谷川さん。
動物園ではだいたい40歳(さい)ぐらいまで生きる。日本平のヒゲワシは30歳をこえているから、あと10年ぐらいで日本からはいなくなってしまう。
こんなに美しい鳥が見られなくなるなんて、すごく残念だ。(文・写真、佐々木央)

佐々木央(ささき・ひさし)1956年青森県生まれ。共同通信編集委員。社会部で教育問題や少年事件を長く取材してきた。著書に若者の生きづらさを取材した「未来なんか見えない 自傷する若者たち」(共同通信社刊)がある。
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