(1)戦争で食もすみかも失う 世界で一番美しいサル
こっちをふり向くと、目が合った。どきっとした。黄色みがかった顔、ぱっちりした黒いひとみ。まるでお化粧(けしょう)しているみたいだ。頭は黒のベレー帽(ぼう)、足は赤いソックスに見える。小枝を持ち、何か深く考えている。
ドゥクラングールはベトナムやラオスの森林にいて「世界で一番美しいサル」といわれる。体長は60―75センチ、尾(お)の長さは55―75センチ。

ドゥクラングールの「ラー」。「ラー」はベトナム語で「葉」という意味だ=横浜市旭区の動物園「ズーラシア」
日本では横浜市(よこはまし)の動物園「ズーラシア」に2頭のオスがいるだけ。飼育員の田島俊一郎(たじま・しゅんいちろう)さんは心配顔だ。
「木の葉が主食なのでたくさん食べてほしいんだけど、あまり食べないんです。熱帯の森林にはいつもやわらかな若葉があったと思う。でも日本の冬はごわごわのしかない。何とか食べてくれる葉を探しています」
絶滅(ぜつめつ)が心配されている。戦争や狩(か)りのせいだ。
ベトナム戦争が長引き苦戦したアメリカ軍は、ベトナムの人がかくれる森林を枯(か)らそうと、1960年代に猛毒(もうどく)の「枯れ葉剤(ざい)」を大量にまいた。木の葉を食べ、樹上で暮らすドゥクラングールは、すみかも食べ物もいっぺんに失った。残った葉も毒にまみれた。
戦争が続くと、現地の人も銃(じゅう)を持つようになる。生活は苦しい。ベトナムのとなり中国では、動物を漢方薬に使ってきた。このため狩りをして売る人や、食用にする人もいて、ますます減った。
田島さんは「戦争自体『動物なんか知ったこっちゃない』という人間の身勝手ですからね」とサルの心を代弁するように話す。ドゥクラングールの考え深そうな顔に、悲しみがかくれているような気がした。(文・佐々木央、写真・有吉叔裕)
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動物園や水族館にはさまざまな生きものがいる。その魅力(みりょく)を探ろう。

佐々木央(ささき・ひさし)1956年青森県生まれ。共同通信編集委員。社会部で教育問題や少年事件を長く取材してきた。著書に若者の生きづらさを取材した「未来なんか見えない 自傷する若者たち」(共同通信社刊)がある。
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