(106)親から落ちて人が育てる 危篤状態から奇跡の回復
千葉(ちば)市動物公園には、木がおいしげった「バードホール」があり、中に鳥やナマケモノがいる。おととし8月、その地面にナマケモノの赤ちゃんがいるのが見つかった。ナマケモノは木の上でくらし、赤ちゃんは母親にしがみついて育つ。母親が子どもを落としてしまったらしい。見つけた伊藤泰志(いとうやすし)さんがタマチンと名付け、育てることになった。

千葉市動物公園のナマケモノ、タマチン。足の先のするどいかぎづめで木にぶらさがる
どんなミルクでどんなふうに育てたらいいのか。外国の文書も調べ、注射器の先に付けた脱脂綿(だっしめん)からヤギ用ミルクを吸わせた。3カ月後、少し大きくなってきたので、保育器から展示室に移した。
ところがその年の大みそか、ふらふらしてようすがおかしくなり、元日には意識もなくなってしまった。「悲しくて泣きたい気持ちでした」。伊藤さんは一晩中、寝ずに看病した。
1月2日、かぼそく鳴いて手を動かした。次の日、ミルクを少し飲んだ。こうして少しずつ元気を取りもどした。
伊藤さんを親と思っているらしい。朝、えさをやるときにしがみついてきたりする。
「生まれてすぐ親から落ちたのに、かすり傷一つなかったのも奇跡(きせき)だし、危篤(きとく)状態から回復できたのも奇跡です」と伊藤さん。「担当者というより親として、元気に育っていってほしいと願っています」(文・写真、佐々木央)

佐々木央(ささき・ひさし)1956年青森県生まれ。共同通信編集委員。社会部で教育問題や少年事件を長く取材してきた。著書に若者の生きづらさを取材した「未来なんか見えない 自傷する若者たち」(共同通信社刊)がある。
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