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no16

復旧支えた使命感を描く 「さんてつ」吉本浩二さん 07.16

 東日本大震災で大きな被害を受けたものの、5日後には一部区間で運転を再開させた「三陸鉄道」(三鉄)の復旧への軌跡を描いた「さんてつ 日本鉄道旅行地図帳 三陸鉄道 大震災の記録」の作者吉本浩二さんに、作品に込めた思いを聞いた。

復旧支えた使命感を描く 「さんてつ」吉本浩二さん

「さんてつ」単行本の表紙

復旧支えた使命感を描く 「さんてつ」吉本浩二さん

「とにかく被災地に足を運んで、自分の目で見てほしい」と語る吉本浩二さん

復旧支えた使命感を描く 「さんてつ」吉本浩二さん

©吉本浩二/新潮社

がれきの中、運転再開を決断するシーン

なるほど

 震災前にバイクで岩手県の宮古市から大船渡市まで3泊4日で回ったことがあります。列車が海のそばを走る風景は美しく、海鮮丼は本当においしかった。震災後、親切にしてくれたあの人たちはどうしているんだろう? 何か描かなきゃいけないんじゃないかという心境でした。


 一方で、この重たいテーマをどう漫画にできるかと悩みました。三鉄が発足した1983年(開業は84年)に入社した男性から「運転再開した際、復旧を待ち望んでいた人たちが詰め掛けた様子を見て、開業初日の宮古駅のにぎわいを思い出した」と聞いて、その場面を描けたら、なんとか希望がつながると思ったんです。


 三鉄の社長は、沿線の被害状況を見回ったとき、リュックを背負った人たちが線路上を歩いているのを見て「早く列車を通さなければ」と決断しました。しかし、線路の上を家や車がふさいでいたし、社員の皆さんも被災者で自分たちの家のことも心配で、余震だって怖かったはずです。


 昨年の3月11日に三鉄に乗せてもらったとき、子どもとお年寄りが列車に手を振ってくれたんです。住民に大切にされていることを実感しました。だからこそ、地域の精神的な支えとしての使命感を燃やして、奇跡的とも言える運転再開を成し遂げることができたのだと思います。


 漫画は三陸とそこに住む人たちの話ですが、同じように自分の住んでいるところ、鉄道や橋に愛着を持ってほしい。当たり前のようであっても、かけがえのないものがたくさんあるんです。被災地では、震災前の当たり前を取り戻すために大変な努力をしているのですから。

 

吉本浩二さん略歴

 よしもと・こうじ 1973年富山県黒部市出身。「ブラック・ジャック創作秘話~手塚治虫の仕事場から~」が「このマンガがすごい! 2012」のオトコ編で1位に輝いた。他の代表作に「昭和の中坊」シリーズがある。

 

三陸鉄道

 岩手県沿岸部を走る第三セクター。「三鉄」の愛称で住民に親しまれている。宮古―久慈の北リアス線(71キロ)と盛―釜石の南リアス線(36・6キロ)からなる。
 東日本大震災の津波で総延長約108キロのうち約5・8キロの線路が流失したが、震災からわずか5日後には一部区間を「復興支援列車」として再開し、3月中は無料で運行した。
 北リアス線は約9割が再開。復旧が遅れていた南リアス線も、盛―吉浜間の21・6キロで運転を始めた。2014年4月に全線復旧予定。
 NHK連続テレビ小説「あまちゃん」に登場する「北三陸鉄道」のモデルとして注目が集まり、全国から観光客が訪れている。

 

取材こぼれ話

 「@バンチ」編集部で行ったインタビュー取材。吉本さんは 「連載中に紹介したものの『本当にできるのだろうか』と不安に感じていた、三陸鉄道の復旧スケジュールを、どんどん実現化している情熱や実行力がすごい」と語ってくれました。

 作中にも登場した担当編集の岩坂さんも同席。「吉本さんに執筆を依頼した理由」をお聞きしたところ、「ブラックジャック創作秘話です。吉本さんが描いた『手塚先生が原稿用紙を目で食らうように仕事をする姿』を見て、復興のために奮闘する姿を描けるのはこの人しかいない、とお願いしました」と振り返ってくれました。

 インタビュー中は、三鉄がモデルの「あまちゃん」も話題に。お二人ともドラマに夢中で「こんなに朝ドラを楽しみに見たことはない」と口をそろえていました。(近藤誠)

 

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