常連客の顔剃りをする舩越一哉さん。優しく添えた指先と表情に長年の関係が映る

東京・渋谷の「ヘアーサロン喜多床」は1871年創業の日本で最も古い理髪店。写真家の荒木経惟さんが、伝統とお客さんとの関係を大事に受け継ぐ、父娘を撮った。

「創業は明治維新で断髪令が施行された年なんです」と4代目の舩越一哉さん。夏目漱石、伊藤博文、新渡戸稲造ら多くの名士が通い、漱石の「吾輩は猫である」にも登場する。

 髪を切り、顔剃りからマッサージへ。ゆっくり丁寧に。「職人だね。おとうさん、いい顔してる」 。この日来ていた90歳の男性は38年通うお得意客。娘の千代さんは「お客さまは良い方ばかり。喜多床を愛し、大事にしてくれて」。

 「今って、安くサッサと切っちゃうところが多いだろ。でも本当はコミュニケーションの場なんだ。小学生のころ『マッカーサーの後にリッジウェイ中将が来るよ』と教えてもらった。不思議だよ、今もしっかり覚えてる」

 「最後に記念写真撮りましょう」と、照れる舩越さんと笑顔の千代さんをパチリ。

 「やっぱり親子ってのがいい。こうやって続いていく、ってさ」

 お客さんと、父と娘と。その写真には喜多床が大切にしてきた「時間」が確かに流れている。
   

さっぱり、びしっと

会話が弾む、笑顔も弾む

「写真は苦手」という舩越さんと、ほほ笑む千代さん。父娘のポートレート