楽天競馬

 サラブレッドの約2倍、体重1トンにもなる「ばん馬」が鉄製のそりを曳き、速さや持久力を競うばんえい競馬。地域の祭りの余興から発展し、明治以来、長く親しまれてきた北海道独自の競馬だ。

 一時は存続の危機にも陥ったが「楽天競馬」などのインターネットサイトを通じた馬券販売や、観光スポットとして売り出していく取り組みが奏功。公営競馬として唯一開催する帯広市の競馬場には、迫力あるレースを見ようと多くの観客が訪れ、来場者数、馬券販売額ともに好調が続く。

イルミネーションに照らされた
ゴール前のデッドヒート

▽圧巻の迫力

 氷点下の身を切る寒さの中、10頭の馬が500キロを超すそりを必死に曳く。200メートルの直線コースに設けられた二つの障害(坂)が勝負のヤマ場だ。

 そりの重さはレースによってまちまちだが、最高峰レース「ばんえい記念」では1トンと桁違いに重い。一定区間に限り戦略的に馬を止めることができるなど、一般的なサラブレッドのレースとはルールも異なる。

 「今だ」「上げろ」。馬が障害にさしかかると、いっせいに声援が飛ぶ。観客がコース脇を馬とともに移動しながら声援を送るのも、ばんえい競馬ならではの光景だ。

ばんえい競馬によるインターネット売り上げの推移

▽危機からの脱却

 ばんえい競馬は世界で唯一現存する「曳き馬」競馬といわれる。以前は旭川市や北見市など道内4カ所で開催されていたが、財政難で次々と廃止に追い込まれ、2007年度からは帯広市の単独開催となった。

 苦しい状況は同市も例外ではなく、不況のあおりを受け、馬券販売額は1991年度をピークに急落。単独開催となった07年度は黒字達成したものの、馬券発売の下落は止まらず、一時は存続も危ぶまれる状況に。

 危機的状況からの脱却を支えたのが、インターネットでの馬券販売だ。全国どこでも購入できる手軽さが受け、今では売り上げ全体の7割をネット販売が占める。

 ネットの需要を最大限取り込もうと、日本中央競馬会(JRA)や他の地方競馬のレースが終わった後にナイターで開催するなど工夫を凝らした。こうした取り組みが奏功し、13年度からは本格的に回復に転じ、日に2億円を売り上げるまでになった。

 07年度からばんえい競馬の馬券販売を手掛け、16年度には馬券販売総額の約3割を売り上げる楽天競馬の担当者は「(帯広は)気軽に来られる場所ではないが、ネットなら物理的制約を乗り越え、全国からのお金の流れを生み出せる」と話す。

 楽天競馬を運営する『競馬モール(株)』では、帯広市と共同で、楽天競馬での売り上げの一部を積み立てて施設整備やイベントなどに還元し、ばんえい競馬を盛り上げる応援企画を13年度から通年で実施。協賛レースを毎日開催するなど、全面的にバックアップする。

 馬券を購入すると「ばんえいコイン」と呼ばれるポイントがもらえ、関連グッズや地元の特産品と交換できる特典プログラムや、JRAの人気騎手を招き、ばん馬に騎乗してもらう「JRAジョッキーデー」の開催など、企画はさまざまだ。

 場内には売り上げの一部で整備された設備も多く、同社は「ネットで馬券を楽しみながらファン参加型でばんえい競馬に貢献できる仕組みだ」と説明する。

ふれあい動物園でニンジンをあげる親子

▽新たな観光資源

 ばんえい競馬が開催されるのは毎週土日月の3日間。休日には家族連れやカップル、観光客の姿も目立つ。ばん馬の大きさを間近で実感できる「ふれあい動物園」では、ニンジンをあげながら笑顔を見せる親子連れの姿も。

 市ばんえい振興室の佐藤徹也室長は「以前は塀と鉄条網に囲われ、地元の人でも足を踏み入れにくい雰囲気だった」と話す。豊かな自然に恵まれた帯広市だが、観光資源は豊富とは言えず「通過型観光地」と言われたことも。

笑顔を見せる
帯広市農政部ばんえい振興室 佐藤室長

 単独開催となって以降、競馬場を「ギャンブル場」から「観光スポット」に生まれ変わらせようと、施設改修で新たにキッズルームを設けたり、分煙化を図ったりするなど、試行錯誤を重ねてきた。

 10年には、観光客だけでなく競馬場とは縁遠かった地元市民にも足を運んでもらおうと、地元グルメや物産品販売が楽しめる施設「とかちむら」を新設。旭川市から訪れた大学生カップルは「怖そうなイメージがあったけれど、明るい雰囲気でびっくり。これなら来やすい」と笑顔だった。

 普段は見られない厩舎やレースに出る馬が事前準備する装鞍所などを見学する「バックヤードツアー」など、レース以外の魅力発信にも取り組む。冬季限定で実施する「朝調教ツアー」は、調教風景に加え、天気に恵まれれば朝焼けを背にした美しい馬の姿が見られるとあって、観光客からも人気だ。

午前5時 マイナス17℃の中で500頭の朝調教が行なわれる
予算目標達成の印であるリボンが並ぶ。

▽将来に課題も

 復活をとげたばんえい競馬だが、将来には課題も残る。生産農家が減り、ばん馬の生産頭数は減少傾向。残る農家も高齢化が進む。佐藤室長は「ばん馬は北海道の開拓の歴史をつくった馬。馬産の文化を絶やさないためにも、ばんえい競馬を存続させないといけない」と力を込める。

 映画化もされた人気漫画「銀の匙 Silver Spoon」で取り上げられたこともあり、ファン層は確実に広がりつつあるが、さらに認知度を高めていくことが今後の課題だと指摘する。

 楽天競馬の担当者も「馬券販売を伸ばすだけでなく、競馬場に来てライブ感を味わい、魅力を再発見してもらう取り組みも両輪で進めたい」と強調する。

 その一環として、16年度はファン投票で優秀馬や馬主を決める「ばんえいアワード」を初めて開催する。関係者も「モチベーションアップにつながる」と歓迎する。

 今年の「ばんえい記念」は3月20日に開催される。2月末に行われた前哨戦には、極寒の夜にもかかわらず多くの観客が熱い声援を送っていた。

 「ばんえい記念」には例年5千人以上のファンが詰めかけ、最も盛り上がりを見せる一大イベントだ。「ばんえい競馬最大の魅力は馬そのもの。競馬場で生の迫力を体感してほしい」

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