47NEWS >  共同ニュース  > 記事詳細
  •  ニュース詳細     
  • 『介護民俗学へようこそ! 「すまいるほーむ」の物語』六車由実著 聞き書きで息づくケアの現場 

      【共同通信】

     

     以前、この欄で紹介した『驚きの介護民俗学』(医学書院)の続編に当たる。大きな反響を呼んだ前著では、大学教員から特養ホームに転職した著者による老人たちへの聞き書きが、民俗学と介護の両分野にもたらす大きな可能性が報告された。

     本書は新たに定員10人の小規模デイサービスで管理者として働き始めた著者の最新ドキュメントだ。聞き書きという手法が介護の現場を次第に活性化してゆくプロセスが、実に生き生きと描かれている。

     介護民俗学は介護の現場で高齢者が子ども扱いされたり、本人の意思が無視されたりする現状に対するアンチテーゼでもある。それまで「ケアする/される」関係だったスタッフと利用者の関係が、聞き書きを通して「教えられる/教える」という関係に逆転する。

    たとえば利用者の思い出に残る味を聞き書きして、みんなでその料理を作って食べる試み。そのプロセスで利用者が語る戦争体験や恋愛話を、周りの利用者やスタッフが笑いと涙の中で共有し、親密な時空間が形づくられる。汲み出されたお年寄りの個人史と人間回復のドラマが本書の読みどころになっている。

     もう一つ、聞いて、書いて、発信する聞き書きという表現行為は、語り手の声に耳を傾け、深く理解しようとし、状況を客観的に見つめる働きを持つと著者は指摘している。ケアすることと表現することは「人と人との向き合い方の本質的なところでつながっている」という。介護民俗学の新たな到達点である。

     (新潮社 1500円+税)=片岡義博