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  • “永遠の17歳”になってみてわかったこと 「つらい。」


     “永遠の17歳”井上喜久子さん(オフィスアネモネ提供)

     「おいくつですか?」

     と聞かれて、とっさに返答に詰まることが増えた。別に答えるのが嫌なわけではない。女性に年齢を尋ねるなんて失礼よ、とか気取ったことを言うつもりもない。ただ答えようにもぱっと年齢が出てこなくなってしまっただけなのです。つらい。30、あれ31になったんだっけ? えーっと今は2015年で誕生日まだ来てないから…とか計算してるうちに妙な間が空いて、質問した方が「あれ、聞いちゃいけなかったのかな」みたいな感じでおろおろしだして気まずい空気が漂ったりする。つらい。かといって「いくつに見えます?」みたいな逆質問ではぐらかすのもこっ恥ずかしいし、気を使ってやけに若い数字を出されたりした日にはそれこそ目も当てられない。というか、こっちは別にいくつだって構わない(つもり)なのに、女が三十路を過ぎたら問答無用で恥ずかしいみたいな風潮のはびこる社会が悪い。「おいくつですか?」と聞かれて「いくつに見えます?」と答える女性の半分は単に年齢が出てこなかっただけだから変に気を回すのはやめましょう、みたいな研究結果があればいいのに。つらい。

     どうせネタだろと笑ってるそこの若者。ネタであってほしいのはやまやまだけど残念ながらこれは現実です。つらい。私だってついこの間までそっち側だった。母親が懸賞か何かの応募ハガキを前に57、58…と指折り数え始めるのを見て笑っている方の人だったのに。長女が生まれて何年かして、気付けば母親と同じことをしている自分がいたのです。つらい。娘ちゃんの歳なら即答できるのに。

     懸賞ハガキの年齢なら31を30と書き間違えたところで特に実害はないだろうけど、仕事で顔を合わせたような人にうっかり1つ2つ違う年齢を言ってしまって、後々「あ、この人さば読んでたな」と思われるのは避けたい。さばを読んだんじゃなくて誕生日が来たことを忘れてしまうのです。つらい。なぜだろう、このところ1年がとても短い。

     いいかげん面倒になってきたある日、ふと気付いた。1つ2つだからさば読んだと思われるのではないか。逆に10以上違ってたらネタとして片付けられるのではないか。そう、いわゆる“永遠の17歳”というやつである。

     “永遠の17歳”は声優の井上喜久子さんが使い始めたといわれるフレーズ。単純に年齢を低く自称するのではなく、何度誕生日を迎えても17歳という通常ありえない状態を作り出すので、詐称として問題になることはない。おおむね“こりん星”とか“10万52歳”とかと似た感じの位置づけになる。要するに井上さんはいつまでたっても17歳なのだ。20年以上前から声優として一線で活躍していらっしゃるけど17歳。娘が17歳だけど17歳。もちろんメード服だって着ちゃう。だって17歳だから。井上さんの影響で声優界には田村ゆかりさん、堀江由衣さんら“永遠の17歳”を自称する女性が少なからず存在し「17歳教」と呼ばれる一大勢力を築いていたりする。だから私も井上さんにならって自己紹介から「高田麻美、17歳でーす☆」と言い切ってしまえばいいのではないか。そうだ。それしかない。

     と、意気込んではみたものの。いざ実行に移すとなると10年以上前に17歳を迎えた身空には精神的なハードルがあまりにも高い。万が一(十が八くらいかもしれない)スベった時のことを考えると舌が凍り付いたように動かなくなる。最初にこれを、おそらくは満場の観客の前でやりきった井上さんは本当に強い心の持ち主だと思う。

     いきなり口頭で「17歳でーす☆」をやるのはどうも無理っぽいので、手始めとしてツイッターのプロフィルに「17歳」と書き込んでみた。まだしんどい。「17歳」の後に「156カ月」(当時)を足してみた。17+156/12=30。これならいける気がする。なんとか。ぎりぎり。高田麻美、17歳156カ月です(当時)。

     以来かれこれ2年近く、ネット上で「17歳1××カ月」を名乗っている。口頭で「17歳でーす☆」をやる勇気はまだないが、文字の上でならだいぶなじんできた。年に1度の誕生日と違い、毎月20日を過ぎたら月齢を一つ上げる方式なので、自分が今いくつなのか常に意識していられる。さすがに懸賞ハガキやブックオフの年齢確認に「17歳175カ月」とは書けないが、月齢さえわかっていれば12で割って余りを切り捨てるだけだから計算は格段に速い。ちょっとした頭の体操にもなる。人と会うのがおっくうでなくなり、性格まで明るくなった。宝くじが当たる日も遠くないだろう。まさにいいことずくめだ。このまま17歳200カ月、300カ月と月齢を重ねていくうちに、いつの日か「おいくつですか?」にちゅうちょせず「17歳でーす☆」と答えられる時が来るかもしれない。

     そんなこんなでひそかに17歳ライフを満喫していたところ、勢い余って健康診断の問診票に「17歳」と記入してしまう事案が発生した。もちろんボールペンである。手ぶらで会場に来たから修正液などあるわけがない。考える。ひょっとして今が“その時”なのだろうか。「おいくつですか?」「17歳でーす☆」。おいおい?いやいや。

     結局「17」の上に2本線を引いて「31」に訂正した。はた目には何をどう間違えたのか想像すらできないであろう問診票をちらっと見て、受付のお兄さん(ちょっとイケメン)が浮かべた微妙な表情はしばらく忘れないと思う。結局つらい。(高田麻美・共同通信記者)

      【共同通信】