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  • 低迷川崎に見る「自由」の難しさ 監督の戦術に戸惑う選手


     川崎・風間監督=豊田スタジアム

     なにも予備知識のないスペイン人が、4月27日のJリーグを観戦するとしたら、間違いなくFC東京対川崎フロンターレのカードを選択しただろう。ただ一つ、その理由は「クラシコ」と銘打っているからだ。

     スペイン語でいう“El Clasico”とは「伝統の一戦」を意味するもので、世界各地に散らばるナショナルダービーのなかでも特に注目の高いレアル・マドリードとFCバルセロナの試合を意味する。それを考慮すれば、まだJ1優勝の経験もなく、Jリーグ発足10クラブでもない両チームが“クラシコ”を掲げるのは、個人的にはどうなのかと思う。そこまで深く考えずに、営業先行の話題作りを狙ったのだろうが、他のクラブのサポーターも含めた関係者は、このネーミングをどう思っているのだろう。

     さて、その多摩川クラシコだが、本場のものと比べれば、この夜の冷たい強風と同様にかなりお寒い内容だった。ゴールシーンだけを見れば、FC東京のルーカス、東慶悟のプレーはそれなりに見応えはあった。しかし、両チームに一切の肩入れをせずに純粋に試合を楽しもうとした人は、きっと肩すかしを食ったことだろう。その最大の原因は、「無抵抗主義」とさえ表現したくなる川崎の低迷だ。FC東京がもう少し気の利いたプレーをしていれば2―0以上の大差がついていてもおかしくない内容だった。

     昨年の4月に風間八宏監督が就任したとき、「川崎はなにかやるのでは」という期待感を持ったものだが、残念ながら今シーズンはなにも伝わってこない。ただ感じられるのは選手たちの戸惑いだ。確かに僕自身、川崎の試合のすべてを見ているわけではない。生で見たのは、今シーズン3試合目だったのだが、それでも選手たちが自信を失っていくのが伝わってくる。誰の目から見ても、現在の川崎の問題点は守備だろう。前線や中盤で相手にプレッシャーをかけるでもなく、ボール奪取は最終ライン任せ。その最終ラインもこの日の東に許した2点目のように、スカッと抜かれるのではサッカーにならない。

     風間監督が選手たちに求めるのは「攻撃の自由度」だという。そのために「自分たちの陣形を崩さない」守備を行おうとしているのだが、積極的にボールを奪いに行かない限り、そう簡単にマイボールにできるものではない。極論をいえば、バルセロナのような驚異的なポゼッションを誇るチームでも、その攻撃が成り立つのは、相手からボールを奪う能力を同時に備えているからなのだ。

     常に相手を圧倒するボール保持を見せるバルセロナ。このスーパーチームについて、面白い数字がある。走行距離のデータだ。自チームでボールをキープしているのだから、バルセロナの走行距離は、ほとんどが対戦相手より少なくなる。ところがスプリントの距離のデータとなると、常に相手を圧倒するのだという。ダッシュでの走りは、ボールを受けるための動きにもちろん使われるが、それ以上に相手からボールを奪うときに、この全力疾走のエネルギーが活用されているのだ。ボールを持てばほとんど失わないチームでも、ボールを奪う能力がまったくなければ、相手がミスをしない限りマイボールにはできない。ボールポゼッションの苦手なチームでも、相手がボールを取りにこなければ、よほどのことがない限りボールを失わないということになる。組織的にボールを奪おうとする姿勢が感じられない現在の川崎を見ていると、この悪循環に陥ったのかなと感じる。

     「自分がそこでなにをやるかを分かっていれば、システムを変えてもやることは変わらない」。大分トリニータ戦後に風間監督は、こう語っていたが真実だろう。ただ、いまの川崎の選手は「なにをやるか」が分かっているのかとなると疑問符がつく。自由を標榜するサッカーに対して、ある中心選手はこう語っていた。「自由って難しいんだよね…」。そして小林悠もFC東京戦後に、かなり戸惑っているような発言をしていた。「今日は人数が少なかった。みんな止まっていた。追い越して行くプレー、動きがまったくなかった…」

     退場者を出したわけでもない11対11人の状態で人数が足りないと感じるのは、いかに川崎が走っていないかということだ。戸惑ったときに一番いいのは、本来戻る場所に立ち返ることだが、現在の川崎にはそれも見えない。世界の超一流の戦術やチームに精通する風間監督。その理想のサッカーが、果たして現在の川崎になじむのか。戦術とは本来、選手の資質に合わせて繰り出されるものではないのだろうか。試合後の記者会見で風間監督と担当記者とのギスギスしたやり取りを見ていると、うまくいかないときの不穏な空気が色濃く伝わってくる。それは選手にも伝わるものだろう。

     これはフロントの思慮が欠けていたこともあるのだろうが、このチームには監督の息子が2人も在籍している。チームが機能しているときには問題ないのだろうが、うまくいかないときはそれも標的にされかねない。現在のバルセロナ黄金期の基盤を作った、あのカリスマ、ヨハン・クライフでも息子のジョルディを1994年にバルセロナのトップチームに昇格させたときには批判された。後にオランダ代表になった選手である。

     救いは、Jリーグで最も家族的で品のいい川崎のサポーターが、まだ我慢していることだ。赤やオレンジ色のサポーターだったら、すでにひと騒動起こしているだろう。そのサポーターの忍耐力に報いるためにも、川崎の復活が望まれる。

    岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

    サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている

      【共同通信】