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  • 続くマリノスの快進撃  「戦術」の中心に中村俊輔


     横浜M―川崎 前半、FKを放つ横浜M・中村=日産スタジアム

     イングランドで王室から勲爵位である「サー」の称号を与えられた故ボビー・ロブソン。1990年ワールドカップで母国をベスト4に導いた名将の有名な言葉に、次のようなフレーズがある。「戦術はロナウドだ!」

     96―97年シーズンに、ボビーがスペインのFCバルセロナを率いていた当時、そこにはフェノメノ(超常現象)の異名をとったブラジルの怪物ロナウドがいた。ボビーは、後にW杯通算得点新記録を15ゴールに更新した、稀代のストライカーの存在そのものが戦術だと言いたかったのだろう。それほどにロナウドは、「個」の力で試合結果を変えられる特別な選手だった。

     ちなみに当時バルセロナでボビーの通訳を務めていたのが、現在レアル・マドリードの指揮を執るジョゼ・モウリーニョだ。サッカーは11人の選手の協力の上に成り立つスポーツだ。しかし、まれに「個」の力だけで90分の試合をコントロールし続ける選手がいる。そのような存在をイタリアでは、尊敬の念を込めて“ファンタジスタ”と呼ぶのだろう。

     集団の猛烈な囲い込みからのボール狩りが主流となっている現代のサッカーでは、ファンタジスタは絶滅危惧種になりつつあるが、数少ないながらJリーグにもこうした選手は生き残っている。その代表格が横浜F・マリノスの中村俊輔だろう。

     チーム開幕連勝記録を6に伸ばし、J1で首位を走るマリノス。そのサッカーを見ると「戦術は俊輔だ」という言葉が思い浮かんでくる。それほどに今シーズンの俊輔のプレーはキレキレだ。

     高校を卒業してマリノスに入団。その後、イタリア、スコットランド、スペインに渡ったが、そのすべてを追いかけている友人記者に聞いたが「ここ10年で最も体が切れていると本人もいっている」というほどコンディションがいいようだ。現在34歳の俊輔が、この動きを3年前に見せていたら、日本は本田圭佑という新しいスターを得ることはなかっただろうというほどの充実ぶりだ。

     元来、守備の強固だったマリノスだが、忠実に守っていればいずれ得点のチャンスは生まれる。それは2列目の空間を幅広く浮遊している背番号25の存在があるからだろう。攻め急がなくても、奪ったボールをそこにきっちりと収めれば、次の瞬間何かが起こる。その期待感を抱いているのは、チームメートも観客も同じだ。

     いい意味で相手を見下したプレー。相手が激しくプレスを掛けてくれば、一度ボールを後ろに戻し、数メートルの移動で相手のマークを外すとボールを受け直す。それを繰り返すことで、マーカーの食いつきが中途半端になると、見透かしたように前を向いて必殺のパスを繰り出す。俊輔のプレーを見ていると、「サッカーってこんなに簡単なものか?」という錯覚に陥る。

     もちろん自分のプレースタンスにボールを置くと、絶対に奪われないという技術的な裏づけのある自信が不可欠だろう。日本歴代でも屈指のキックの正確さもそうだ。だからこそ、相手の心理の裏をつく駆け引きの勝負を楽しめる。

     4月13日の川崎フロンターレ戦。マリノスが奪った2ゴールは、ともに俊輔のCKから生まれた。試合を通して9本のCKがあったが、偶然だろうがそのすべてが右から。レフティの俊輔にとってのインスイングのボール。ゴールに向かって曲がっていく軌道だ。

     開始9分、1本目のCKからGK杉山力裕との駆け引きが始まった。俊輔は「(GKの)タイプが分からなかったから。パンチングをするGKと、DFに任せるGKもいる。ファーでも出てこないGKもいるし」と語ったが、カーブをかけて直接ゴールを狙ったことで、明らかにGKはその後CKで飛び出せない状況になった。見事なけん制だった。手を使えるGKの飛び出しを封じたことで、その後のマリノスはCKの際、相手ゴール前の制空権を握った。

     試合後、記者の集まるミックスゾーンで、いつものようにサッカーの即席講習会が始まる。それは試合後の監督記者会見よりも、さらに具体的で分かりやすい。俊輔のレクチャーを聞くたびに「この人は、突き詰めるまで考えてサッカーをやっているんだ」ということが、とても伝わってくる。それにしてもマリノスにとって幸運だったのは、後半21分に同点にされた場面で俊輔が退場にならなかったことだ。CKから田中裕介が放ったヘディングシュートに対し、ファーポスト際にいた俊輔の手が出たのだ。「反射的に出た。あれでゴールになってなかったらPKで退場」と苦笑する俊輔。

     ボールを弾き出していたら得点機会阻止で一発レッド。次節からマリノスは「戦術」を出場停止で失う羽目になっていた。それがイエローカードで済んだのも、いまのマリノスの勢いか。残念なのは、快進撃を続けるマリノスの活躍があるのに、日産スタジアムのこの日の観衆が2万7千人強で、スタンドに大きな空きがあったことだ。いまのマリノスのサッカーはとても面白い。特に中村俊輔という切れのいい「戦術」は。横浜の人たちはぜひ、スタジアムに足を運んでもらいたい。

    岩崎 龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル

    サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。5大会連続でワールドカップの取材を行っている

      【共同通信】