横浜事件決定要旨横浜事件の元被告5人に対する刑事補償をめぐる4日の横浜地裁決定の要旨は次の通り。 【事実認定】 雑誌『改造』の元編集部員の小野康人さんは1942年7月、共産主義者の評論家細川嘉六氏らと富山県泊町の旅館などで共産党の再建準備会を結成することなどを決め(泊会議)、細川氏の共産主義的啓蒙論文を42年8月号の改造に掲載したなどとして、治安維持法違反で有罪が確定した。 しかし小野さんらは失神させられるような暴行を伴う激しい拷問で神奈川県警察部特別高等課(特高警察)の強制誘導に屈して虚偽の自白をしたと合理的に推認される。泊会議参加者の供述の信用性は否定され、共産党再建準備会を開いた事実を認定する証拠はない。 泊の会合と改造社内での論文掲載決定は時間的に逆の可能性が高く、掲載が泊会議で決定された方針に基づく行為との公訴事実は成り立たない。 細川論文が共産主義的啓蒙論文かどうかは客観的に容易に判断できるものではなく、小野さんが共産党などの目的達成のために論文を掲載したという証拠は存在しなかったと言うべきだ。 再審公判で裁判所の実体判断が可能だったなら、小野さんは無罪判決を受けたことは明らかだ。 【警察、検察、裁判の各機関の故意過失】 劣悪な環境で身柄を拘束され、木刀で乱打されるなどの拷問を特高警察から受け、肉体的苦痛は計り知れない。拷問に屈して意に反する手記や尋問調書を作成させられた精神的苦痛は甚大だ。 泊で共産党再建の準備会があったとの認定にはかなり無理があり、特高警察が極めて脆弱な証拠に基づいて検挙し、拷問を加えて意思に反して尋問調書を作成した。 特高警察が事件を捏造したか否かは関係記録上定かでないが、旧刑事訴訟法でも暴行・脅迫を用いた取り調べは許されず、違法な手法で捜査を進めたことは故意に匹敵する重大な過失があったと言わざるを得ない。 検察官は特高警察に取り調べ状況を報告させるなどし、拷問の事実の有無、程度などを調査し、是正を図る措置を講ずるべきだった。拷問などの事実を見過ごして起訴した点に、少なくとも過失があったと認められる。 旧刑訴法で取り調べが予定されている予審判事にも、拷問の事実を見逃して公判に付したことにつき過失があった。 横浜事件関係者らの一部は、終戦前後の公判で集団で短時間の審理を受け、供述は拷問による虚偽のものとして覆そうとした者がおり、小野さんもその一人と考えられるが、十分な審理がないまま即日判決を受けたことがうかがわれる。 確定審裁判所が小野さんらの供述を慎重に検討したとは認められない。拙速・粗雑といわれてもやむを得ないような処理がされ、慎重な審理をしようとしなかった裁判官にも過失があった。 有罪判決は、特高警察による思い込みの捜査から始まり、司法関係者による事件の追認によって完結したと評価でき、警察、検察、裁判の各機関の故意・過失は重大だったと言わざるを得ない。 小野さんの自白は、拷問の影響によるもので、捜査を誤らせる目的があったとはいえない。弁護人が、執行猶予になることを前提に即日結審・判決という手続きを容認したことは、生死がかかっているという現代からは想像できないような厳しい状況下での選択で非難できない。小野さんらの側の対応に問題があって有罪判決が確定したとみることもできない。 小野さんの財産上の損失、肉体的、精神的苦痛は甚大で、警察、検察、裁判の各機関の故意・過失も重大で、補償額を減じるべき事情はない。 また元中央公論編集者木村亨さん、元満鉄調査部員平舘利雄さん、元改造社員小林英三郎さん、元古河電工社員由田浩さんの4人についても同様に、再審公判で実体判断をしていれば無罪判決を受けたことは明らかだ。 特高警察の暴力的な捜査から始まり、司法関係者による追認によって有罪判決が完結したと評価でき、関係者の故意・過失等は総じて重大だ。 特高警察は極めて脆弱な証拠に基づき違法な捜査を進めたことは、故意に匹敵する重大な過失があった。検察官は拷問の事実を見過ごし起訴した点に少なくとも過失が認められる。拷問を見過ごしたまま公判に付した予審判事にも過失があり、慎重な審理をしなかった裁判官にも過失があった。 【共同通信】
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