47NEWS >  共同ニュース  > 記事詳細
  •  ニュース詳細     
  • 子育てさがし 映像作家の豪田トモさん


     豪田トモさん=東京都目黒区

    ◎命のすばらしさ感じて 「うまれる」ことは奇跡

     映像作家の豪田トモさん(36)は赤ちゃんがおなかの中にいた時のことを覚えている「胎内記憶」という考え方との出会いをきっかけに、出産ドキュメンタリー映画「うまれる」を企画、監督している。命のすばらしさを映像で伝えるとともに、映画を見る人が「生まれてくれて、生んでくれてありがとう」と素直に感じられる作品にしたいと思っている。映画は今年秋に公開予定だ。

     ▽疎遠な親と「何とかしたい」

     「うまれる」を撮影したいと思うまで、両親とはうまくいっていなかった。4歳年下の弟は障害があり入院、手術の繰り返し。両親に豪田さんのことを構う時間がなかったのか、親の愛情を感じた記憶がなく、無意識のうちに両親に否定的な感情が芽生えていた。

     「両親に愛されることを体感していなかったので、何のために生きてきたのか、何でこの家族にいるんだろうと思っていた。憎みはしないけど、長い反抗期を続けていた感じですかね」

     大学を卒業して会社員になったが、映画を撮る夢をあきらめきれず、29歳でカナダのバンクーバーに留学した。結婚から半年後のことだった。約3年半、単身で勉強。家庭を顧みず映像づくりにのめり込んだことが原因で離婚した。振り返ると自分が父親と同じことをしていると感じ、両親との関係を何とかしたいと考えるようになった。

     「僕の父親は仕事人間で、同じようになるまいと思っていたけど、結局は同じことをしていた。もし自分に子どもが生まれたら、親の愛情を体感できない子どもを育ててしまうんじゃないかとすごく怖くなったんです。自分と親の関係は、自分と子どもに受け継がれると思っていたから、どうにかしたかったけど、どうしたらいいかは分からなかった」

     そんな感情を抱いていた2007年1月ごろ、お世話になっていた人にお願いされてボランティアでセミナーを撮影するため、産科医の池川明(いけがわ・あきら)先生の講演を聞いた。池川先生の話は「胎内記憶を持つ子どもが3歳くらいだと30%もいる」「赤ちゃんたちは雲の上で自分の両親を選ぶ」という内容だった。

     「そんな考え方に触れたことがなくて、びっくりしたけど撮影している手が震えるくらい感動しましたね。まったく非科学的でファンタジーだけど、本当かもと考えたら素晴らしいと。今までは子どもは親を選べないと思っていたけど、もし僕が親を選んだのかなと考えた時に、僕がたまたま親の愛情を感じられなかったんじゃないか、現在のぎくしゃくした親子関係は僕が引き起こしているんじゃないかと整理できた。初めて親のことが理解できて、感情的なしこりはほとんどなくなりました」。まだ製作資金のあても具体的なビジョンもなかったが、すぐに池川先生に連絡を取って映画製作を快諾され、徐々に出産についてのリサーチを始めた。

     ▽とにかく感動的

     09年4月から撮影がスタート。出産までの夫婦や流産・死産を経験した夫婦の再生、長い不妊治療の末に「生まない決断」をした女性らのドキュメントが映画の主な構成だ。撮影の進行状況の紹介などをしている映画のホームページや、協力してくれる産科医や助産師の紹介で撮影対象を探したところ、3カ月で100件以上の申し込みがあった。昨年12月に製作発表として東京都内で開いたイベントでは、250人の定員に1カ月前からキャンセル待ちが出るほど反応は上々だった。

     卵巣がんから再起した人、不妊治療や流産の経験がある人、家族との関係に問題を抱えた人などこれまでに7人の出産を撮影。周産期医療の現状も探るために産科医や助産師からも話を聞いている。

     「『出産は見ない方がいい』と脅かす人もいたんですけど、こんなに感動的とは思わなかった。頭では分かっているけど、実際に新しい命が誕生する瞬間を見るのは、半端なことではなく、たまげました。最初の撮影は自宅での自然分娩だったので血はほとんど出なくて、テレビでよく見る映像とイメージが違った。生まれてきた赤ちゃんも母親の胸の上に置いたら泣きやんで、父親と母親以外に抱かれると泣き始める。最初から親を分かっているんじゃないかと思うような不思議な体験でした」

     「つらい死産を経験した方が、再び妊娠した時に病院で撮影させてもらえたのですが、小さな命を画面で確認した時は、まったくの他人だけど、なんでこんなに感動してるんだろうって思うぐらい感動しました。毎日がそんな感動の繰り返しです」

     ▽生きることをポジティブに

     映画で訴えたいのは胎内記憶が本当にあるかどうかではない。子どもから聞いた胎内記憶の話を気持ちの支えにしている母親はたくさんいるし、胎内記憶を否定する医療関係者もいる。ただ豪田さん自身が、真実かどうかもよく分からない話に心から癒やされ、勇気づけられたことが撮影のきっかけになった映画で、どういうメッセージを見いだすかが重要だと考えている。

     「そもそもこの世の中、何が本当でうそなのか分からないし、愛情や友情だって目に見えないもの。人を信じる感情も科学で証明できないじゃないですか」

     「3、4歳の女の子がいるシングルマザーの方がいて、その子は『雲の上でお母さんとおばあちゃんが楽しそうにしているのを見てお母さんにした』と言ったんですって。神様みたいな人から『お父さんがいなくてもいいか』と聞かれたけど『それでもいい』と選んだそう。本当かどうかは絶対に証明できないけれど、それを聞いた親がポジティブに生きられればいいんじゃないでしょうか」

     引きこもりやニートなど社会とのかかわりが持てない若者について、行政が対策を取り始めたり、自殺者の増加が社会問題化している。

     「自分に自信が持てなくて、何で生きているのか分からない人が多いと聞きます。バンクーバーに映画留学する前の自分もそうでした。それは生まれてきた役割を見いだせなかったり、両親から愛情を感じられなかったりというのがすごく大きいと思う。映画を見てもらった人が一人でも、前向きに生きるヒントを感じてくれたらいいですね」

     「撮影してみて、一人の命を生むことには何もかなわないと感じます。生まれてくることは奇跡の連続なので、あなたはどれだけすごい人間なのか、気付いてほしい。もしかしたら自分は喜ばれて生まれてきたのかなって感じられると、人生ちょっと変わるような気がするんですよね」

     今の趣味は出産の立ち会いだ。医療関係者以外で、これだけ出産現場に立ち会ったり、妊婦から話を聞いた男性はいないかもしれない。撮影を始めてから、自分の子どもが早くほしいと強く思うようになった。

     「パートナーの了解が必要ですけど、自分の時はインターネットとかで“公開出産”をしたいですね。命が出てくる瞬間をリアルタイムで見ることはあまりないじゃないですか。もし生まれ変われるのなら、産科医か助産師になりたいし、出産も経験してみたいです(笑)」。ただ、自分の子どもが生まれてくる時は、撮影はスタッフに任せてパートナーのサポートに専念するつもりだ。(共同通信デジタル編集部、2010年1月5日配信)

     × ×

     豪田(ごうだ)トモさん 1973年、東京都生まれ。中央大卒。会社員を経て、02年にカナダへ留学、映像学校で学ぶ。06年に帰国し、07年に映像製作会社「インディゴ・フィルムズ」を設立。09年から「うまれる」の製作開始し、10年秋に公開予定。

      【共同通信】