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 ベトナム・ハノイでチュオン・タン・サン国家主席(右)と握手する関電の森詳介会長=2011年11月21日

 「関西電力には40年以上、安全に原子力発電所を運転してきた経験がある」。2011年11月21日、ベトナム・ハノイ。関電会長の森詳介は国家主席チュオン・タン・サンに強調した。ベトナムへの原発輸出は、民主党政権が新成長戦略の柱に据える官民一体型のインフラ輸出の第1弾だ。1基数千億円規模の事業にオールジャパンで乗り出した直後に起きた東京電力福島第1原発事故。「脱原発」の世論を受け一時は頓挫するかに見えたが、役者を変えながらシナリオは継続している。

日本連敗

 09年12月末、韓国が世界を驚かせた。日米連合、フランスと競っていたアラブ首長国連邦(UAE)の原発建設を大統領李明博のトップセールスで受注したからだ。10年2月には日本が受注に手応えを感じていたベトナムの原発建設第1期工事2基をロシアに持って行かれた。
 「『政府は一体、何をしているのか』との批判が湧き起こった。『頑張らなければ』と体制整備を進めた」と、当時の外相岡田克也は振り返る。
 10年1月に国家戦略担当相に就任した仙谷由人が動き始めた。20年来のブレーンである国際協力銀行国際経営企画部長の前田匡史と二人三脚で、政府が前面に立つ形での原発輸出を模索。3月に前田、5月に仙谷がベトナムを訪問し、第2期工事2基の受注に道筋を付けた。6月に新成長戦略が閣議決定され、前田は内閣官房参与に就任する。

国策会社

 1986年のチェルノブイリ事故などを受け停滞していた原発需要が、新興国のエネルギー消費拡大や地球温暖化問題を契機に復活。2035年までに世界で最大約400基が建設され、200兆円規模の投資が行われるなどの試算が「バスに乗り遅れるな」の機運を広げていた。
 前田は韓国に敗れた原因を徹底分析。受注競争を勝ち抜くには「官民一体」に加え運転、保守・点検もセットにした「パッケージ」型サービス提供が不可欠と提言した。
 運転などのノウハウを持つ電力各社は当初、及び腰だった。「将来、トラブルの責任を問われるリスクが生じると考えた」(日本エネルギー経済研究所原子力グループマネジャーの村上朋子)からだ。だが経済産業省も動員して業界トップの東電を説得。10月に電力9社と原発メーカー3社、政府出資の投資ファンドがスクラムを組んだ国策会社「国際原子力開発」が発足した。直後に首相菅直人がベトナムを訪問。首相グエン・タン・ズンと2基受注で合意する。

政府答弁書

 福島原発事故で流れは急変しかかった。菅が「脱原発依存」を宣言。原発輸出についても国会答弁で再検討に言及したからだ。「原発事故を受け、もう一度きちんと議論しなければならない」。ある電力会社幹部は「正直『もう輸出は駄目だ』と覚悟した」と語る。
 しかし、ベトナム側の態度は変わらなかった。11年4月9日に外相松本剛明と会談したベトナム外務次官は「パートナーを変えるつもりはない」と明言した。90年代初めから続く原子力関係者同士の交流がその背景にあった。日本で研修したベトナム原子力エネルギー研究所所長ブオン・ヒュー・タンは「原発は社会経済発展のために必要だ。日本の技術を信頼している」と強調する。
 松本は「ベトナムは期待している。約束したのは首相自身でしょう」と菅を説得。8月5日に閣議決定した原発輸出に関する政府答弁書は「諸外国がわが国の原子力技術の活用を希望する場合は、世界最高水準の安全性を有するものを提供していくべきだ」と事実上、輸出を認める内容に落ち着いた。
 トップセールスの担い手は菅から野田佳彦に、運転・保守の指南役は東電から関電にバトンタッチ。10月下旬に仙谷がハノイを再訪問し、同31日には首相の野田 が来日したズンと会談、輸出推進を再確認した。
 輸出に生き残りをかける原子炉メーカーはしたたかだ。米ゼネラル・エレクトリック(GE)と組む日立は7月、リトアニアで原発の優先交渉権を獲得。三菱重工業は仏アレバとヨルダンの原発受注を目指す。東芝も米企業と連携し、サウジアラビアでの事業獲得に乗り出している。「世界の競争は厳しい。福島事故が起きたからといって計画見直しなどやっている暇はない」。あるメーカー幹部の言葉だ。(西野秀、敬称略)=2011年11月29日 

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日本を創る 連載企画原発編 原発と国家

①原発と国家

第1部「安全幻影」
第2部「『立地』の迷路」
第3部「電力改革の攻防」
第4部「『電力』の覇権」
第5部「原子力の戦後史」
第6部「原子力マネー」
番外編・原子力の戦後史を聞く
第7部「原子力人脈」
第8部「漂流する原子力」
番外編・アトムの涙 手塚治虫が込めた思い

②復興への道

第1部「漂う人びと」
番外編・専門家に聞く
第2部「再建のハードル」
第3部「地方のスクラム」
第4部「海外の被災地」

③インタビュー

震災と文明
震災後論
海外の原発政策
震災後論②
震災後論③
震災後論④