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電力使用状況の表示(右上)と東京電力本店(左上)、謝罪する東電幹部(下)のコラージュ

「電力の重要性を利用者に教育するため、夏の供給量は厳しい予測で出すべきだ」

 福島第1原発でメルトダウン(炉心溶融)が進行していた2011年3月中旬。事故対応に追われる東京・内幸町の東京電力本店での会議で、ある幹部は言い切った。東電は14日、戦後の混乱期以来の「計画停電」に踏み切る。

 鉄道各社は運行本数を大幅に減らし、首都圏の駅は「出勤困難者」であふれた。茨城、千葉両県の被災地までが停電の対象地域となり、予告された地域で停電が見送られるなど発表も二転三転。テレビ中継された東電幹部の官僚的な受け答えは利用者を怒らせた。

からくり

 東電は25日に「今夏の需給見通し」を発表。「供給力が最大電力を大幅に下回ると予想される」と需給状況を説明し、予想される7月末の供給力は需要見込みに比べ、850万キロワット少ない4650万キロワットしかないとした。

 数字にはからくりがあった。夜間の余剰電力でダムにくみ上げた水を需要の多い時間に放水する揚水発電が除外されていた。「供給力を算定できない」としたが、公表資料は設備容量を1050万キロワットと明記している。

 経済産業省の幹部は「東電は危機をあおり、俺たちをつぶしたら大変だぞと脅しをかけていたんだ」と振り返る。

公益性

 電力業界は戦前、一時は800を超える会社が乱立したが、電力国家管理法で統合。戦後は「電力の鬼」と呼ばれた実業家松永安左エ門の力で9社体制となり、電力の安定供給義務を負う代わりに競争相手のない「地域独占」が認められた。

 「電力会社は安定供給を錦の御旗にしていたが、脆弱なシステムだったことが事故で露呈した。結局、独占を正当化してきただけだ」。内閣官房の幹部は指摘する。

 公益性が高い電気事業を守るため、電気料金を認可する国は、民間企業である電力会社に対し、ほかの公共料金と同様に一定の利益を保証する「総括原価方式」という特殊な料金算定の仕組みを認めている。

 コストには広告費など広範な分野が認められ、利益は資産に数%の報酬率を掛けて算出。原発などの巨大な資産を持てば持つほど利益は膨らむ。電力各社は原発増設やオール電化といった需要創出にひた走った。ある経産官僚は「費用が全て料金に乗せられる。取引先にも言い値で買ってくれる最高の客になっている」と明かす。

 巨額の収入を背景にした設備投資額は毎年1兆円を超え「もう一つの公共事業」と言われるまでに。全国八つの経済連合会の会長職は電力会社の指定席で、地方の"盟主"として君臨してきた。

不払い

 オイルショックの影響で電気料金が大幅値上げされた1974年。東電会長の木川田一隆は参院議員市川房枝に直接会い、自民党への政治献金中止を約束した。公益企業の献金に反発する「1円不払い運動」の拡大を懸念、業界を守るためだったが、献金は役員個人の名義に姿を変えて続く。

 東電は同じころ、原発反対を訴えた不払いには強硬だった。運動を進めたのは日本消費者連盟代表を務める富山洋子らの「世田谷区消費者の会」。

 富山らは値上げ前の料金を振り込んだ。対応した社員は後に副社長となり98年から2期、参院議員を務めた東電顧問加納時男。「満額でないと受け取れない」と何度も事務所に現金を返しに来たという。

 そのうちメンバーの夫は会社の上司に耳打ちされた。「おまえの嫁さんは変な運動に関わっているらしいな」。運動からは離脱者が出始めた。富山は「やり方は巧妙だった」と振り返った。

 2011年8月。24時間介護が必要な寝たきりの男性(60)は都内の自宅で不安を抱えていた。「医療用に使っている機器がいつ止まるか。生きた心地がしない」。連日の猛暑が続いた今夏、東電管内で計画停電の恐れが生じる電力の需給逼迫(ひっぱく)は起きなかった。(敬称略)(中井信晃)

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日本を創る 連載企画原発編 原発と国家

①原発と国家

第1部「安全幻影」
第2部「『立地』の迷路」
第3部「電力改革の攻防」
第4部「『電力』の覇権」
第5部「原子力の戦後史」
第6部「原子力マネー」
番外編・原子力の戦後史を聞く
第7部「原子力人脈」
第8部「漂流する原子力」
番外編・アトムの涙 手塚治虫が込めた思い

②復興への道

第1部「漂う人びと」
番外編・専門家に聞く
第2部「再建のハードル」
第3部「地方のスクラム」
第4部「海外の被災地」

③インタビュー

震災と文明
震災後論
海外の原発政策
震災後論②
震災後論③
震災後論④