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視標「天皇退位」

国民感情、保守派と開き

 今上天皇による昨年8月8日の「お気持ち」表明以降、多くの国民が注目してきた生前退位について、一つの区切りが付こうとしている。

 各種世論調査では国民の9割以上が生前退位に賛成し、政府が進めてきた「一代限りの特別な措置」ではなく「退位の制度化」を望む声も7割近くを占めた。「お気持ち」に触れた多くの国民が、今上天皇の強い譲位の気持ちを理解し、制度の恒久化を望んでいることを「忖度(そんたく)」したがゆえの結果だろう。

 にもかかわらず、政府が設置した有識者会議およびヒアリングでは、こうした世論を無視するかのように議論の重心がずらされた。退位そのものを認めない「極論」と「一代限りなら認める」という二項対立に誘導されたのだ。この二項対立であれば、後者の方が、妥当性が高く見える。

 現在の天皇制を続けるなら、どのような制度的な手当てが必要なのか。皇室典範の改正を含め、抜本的な議論をするべきであったのにその議論は全く深まらなかった。何とも後味の悪い結末だ。

 一連の議論から見えてきたのは、“保守派”と呼ばれる人たちがこの議論で何を重要視しているかということである。

 「〈開かれた皇室〉という〈怪しげな民主主義〉に寄られることなく〈閉ざされた皇室〉としてましましていただきたい」(加地伸行・大阪大名誉教授、「WiLL」2016年9月号)

 「もっとも重視しなければならないことは、これまで男系で続いてきた万世一系の皇統を守ること」(渡部昇一・上智大名誉教授、「正論」16年9月号)

 「たとえ一回でも退位の前例を作れば、日本の国柄の根幹を成す天皇制度の終わりの始まりになってしまう」(八木秀次・麗沢大教授、朝日新聞16年9月11日)

 彼らが重視しているのは「お気持ち」で示された個人の思いや、天皇個人ではなく、「天皇制」という国体なのだ。

 世論調査と逆行するこれらの考え方は反発を招いた。多くの国民が「人権」的な観点で退位を肯定している以上、当然のことだ。しかし、同時にこれは厄介な問題もはらんでいる。現状の象徴天皇制はそもそも、天皇家に不自由を強いる立て付けになっているからだ。

 制度上、天皇の「人権」は制限されている。「お気持ち」の表明があったことで、われわれは戦後これまで見て見ぬふりをしてきたこの問題に初めて直面したのだ。結果として、国民は「天皇の人権」を常識として認めた。それは世論調査の結果として表れている。

 今上天皇は祭祀(さいし)と行幸啓を中核とする、昭和とは全く異なるやり方で象徴天皇を務めてきた。同じ目線の高さで国民に寄り添ってきたからこそ、国民も「持って当然の権利」として退位に理解を示したのだろう。

 だからこそ、われわれには大きな宿題が与えられている。天皇と天皇制のあり方について抜本的に捉え直し、高齢社会における象徴天皇はどうあるべきか、「人権」の問題として議論する必要がある。

 “保守派”の主張と国民感情に大きな開きがあることは「人権」という観点から眺めれば一目瞭然だ。いま一度「人権」について国民一人ひとりが真剣に考えてほしい―。国民に託された大きな「置き土産」。生かすも殺すもわれわれ次第だ。

  (2017年6月9日配信)

ジャーナリスト 津田大介

 つだ・だいすけ 1973年東京都生まれ。早大卒。早大文学学術院教授。メディア論や社会問題を巡る著作多く、論壇で活躍。主著に「ウェブで政治を動かす!」。