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視標「米大統領の施政方針演説」(オピニオン欄用)

あいまいさに安定の余地

 トランプ米大統領の施政方針演説を聞いて「やればできる」「ずいぶんと大人の発言になった」と驚いた。輸出の課税を免除して輸入課税を強化する「法人税の国境調整」に言及するという予想がもっぱらだったが、大統領はその議論には踏み込まなかった。

 これまで黒人のことなど考えていない印象だったが、出だしから公民権運動に触れ、メラニア夫人のそばに黒人女性が座っていた。新薬の認可を巡る規制にもかかわらず病気に立ち向かう若い女性も紹介。民主党議員も起立して拍手する場面をつくった。過去の大統領演説のように党派を超える演出がトランプ氏の微妙な変化を感じさせる。何より、これまで欠けていた「明るさ」があった。

 演説の末尾で「米国をもう一度信じよう」と呼び掛け、全体として選挙戦や就任演説で見せた攻撃性や排他性を軌道修正したように映る。政権発足から1カ月余りが経過し、バランス感覚が働いてきたのではないか。

 演説の中で、トランプ氏が具体的な数字を表明したのはインフラ整備に官民の資金1兆ドル(約113兆円)を投資する法律の制定を議会に求めた点だけ。焦点だった中間層に対する減税の規模や国防費の増強で、具体性に欠けると指摘する向きもあるかもしれない。

 しかし、私はむしろ、トランプ氏があまり詳細に語って自縄自縛に陥る展開を避けることができたと考えている。大きな方向性だけを示すことにより、議会との調整で落としどころを探る安定的な政権運営への余地を残したと評価したい。

 演説を聴いて一番ほっとしたのは共和党議員ではないか。この演説を基調とすれば、議会も政権との距離を縮めていく芽が出てくる。

 ただ、今回の演説でも「米国第一主義」の考え方は揺らいでいない。「自由貿易よりも公正な貿易を」という言葉も不気味に響く。トランプ氏は自らの支持者に歓迎されることを最優先し、政策を遂行していくだろう。

 その関連で、トランプ氏が日本などの同盟国に「直接的かつ有効な役割を果たし、公平に費用を負担するよう期待する」と改めて強調した発言は重い。これから日本に防衛費の増加や装備の購入を要求してくる公算が大きいだけに、日本は引き続きトランプ氏の一挙手一投足を注視していかなければならない。(談)

 (2017年03月01日配信)

双日総研チーフエコノミスト
吉崎達彦

 よしざき・たつひこ 1960年富山県生まれ。一橋大卒。日商岩井(現双日)から米ブルッキングズ研究所客員研究員などを経て2004年から現職。著書に「アメリカの論理」など。