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視標「米大統領の施政方針演説」(オピニオン欄用)

保守主義の解体を模索

 トランプ米大統領の施政方針演説は、「米国の殺りく」などのフレーズを使って暗い内容となった大統領就任演説と比べ、より普通なものに近づいた。

 そうなったのは、大統領が政策を今後実施していく、つまり議会を相手に「本当の政治」を進めていく上で、柔軟姿勢を示す必要があると判断したからだろう。

 しかし今回の演説で、トランプ氏の一連の政策が抱える矛盾が解消されたわけでは全くない。

 企業減税や国防費拡充、1兆ドル(約113兆円)のインフラ投資を表明したが、共和党の伝統である「小さな政府」路線とは真正面から対立する。そもそも財源はどうするのか。具体策は示されず、相変わらず大きな矛盾を残したまま、従来主張が繰り返された。

 社会保障を巡っては、医療保険制度改革(オバマケア)廃止のため、コスト削減や競争原理導入などの指針を示した。米国にとって、保険制度整備は100年近く続く課題。妥協を重ねたのがオバマケアだったが、今回の曖昧な指針で、代わりとなる制度創設への道が開けたとは到底思えず、これからも論争は続く。

 移民対策では新システムの導入を提唱し、社会保障に負担をかけず、自分で稼ぐ能力のある移民を受け入れる方針を示した。米国の雇用実態と窮迫する予算状況を踏まえ、調和可能なシステムを提案したわけだが、かねて主張する「法治」を強調することも忘れなかった。

 演説で人工妊娠中絶や同性愛に触れなかった点にも注目したい。宗教右派へのメッセージがなかったことを意味するからだ。

 トランプ氏はレーガン時代以来の保守主義を再定義しようとしているのだろう。「小さな政府」を求める財政均衡派、民主主義拡大のために軍事力も使うネオコン(新保守主義)、そして宗教右派が現代保守主義の「3本柱」だが、トランプ氏は「大きな政府」を求め、民主主義的価値観よりも「米国第一」を重視する。そして今回の演説は宗教右派を無視した。

 レーガン時代からの保守主義の“解体”を模索する動きと言えるが、現在の議会共和党は「3本柱」をベースに当選してきた議員で構成される。

 トランプ氏の思い描く保守主義と議会のそれには相当な隔たりがあり、財政均衡を重視するライアン下院議長との衝突も今後予想される。(談)

 (2017年03月01日配信)

北海道教育大教授 飯山雅史

 いいやま・まさし 1957年生まれ、東京都出身。一橋大卒。博士(政策研究)。読売新聞ワシントン特派員などを経て現職。主著に「アメリカ福音派の変容と政治」。