文明の軸は東アジアへ

人間の顔持った市場形成を  私は「中道進歩の旅人」

 「私は右でも左でもない。中道進歩だ。私が監獄に入った時、私を不屈の革命家と持ち上げて、一種の左翼神話をつくろうとした。私はそれに悪口を言うこともできなかった。なぜなら、民主化に進む一つの道なのだから、戦術的な誤りもあるだろう。私だけが我慢すればよいと思った」
 韓国の抵抗詩人として知られる金芝河(キム・ジハ)(68)はソウル近郊、京畿道の自宅で、自らの立場をこう説明した。
 1970年に処女詩集「黄土」や、痛烈な風刺詩「五賊」で鮮烈に登場。74年に民青学連事件で死刑判決を受け、国際的な釈放運動で75年2月に出獄するが、同三月再び逮捕され、80年12月まで5年9カ月を獄で送る。長い独房生活は精神にも支障を与え、その後、精神科病院へ12回も入院した。
 「父は山に入ってパルチザンまでやった共産主義者だった。祖父、曾祖父は(李朝の民衆宗教の)東学に属した。父は私のために、山を下りて自首し、自殺まで図った。どうして私が主義者になれる。だけど、父が歩んだ道にどうして息子が関心を抱かずにおられるだろうか。だからマルキシズムの勉強はした」
 獄中生活の中で獄のセメントのわずかなすき間に雑草が根を下ろし成長する姿を見て生命思想への関心を深める。「今起きていることは資本主義か、社会主義かという体制の問題でない。政治闘争では問題を解決できない」と考え、出獄後、有機農業、環境運動、生命運動などを展開した。
 「私は、思想とは一つの参考書だと思う。ある思想が自らの人生の真実から遠ざかる時、ほかの参考書を持ってくればよい」。金芝河は東学思想、仏教、環境理論、生命学などに新しい「参考書」を求めた。

3度、自殺図る

 91年、学生運動の活動家の焼身自殺が相次いだ。金芝河は「今、すぐ、死の賛美を中止せよ」と自殺の中止を訴えた。だが、左派陣営から大きな反発を招いた。「私や家族への危害、妻の母にまで侮辱を加えた」
 自殺中止を訴える背景には自らの体験もある。21歳の時、3度、自殺を図った。「家も貧しくて何の希望もなかった。高校の時から肺結核で、恋愛も片思いで失敗した。私が生きる意味は何か分からなかった」
 大学の担任教授へ手紙を書き、悩みを訴えた。教授は「老子」を読めと勧めた。すぐ「老子」を買って読むと、教授の言葉通り自殺する気持ちがなくなった。「だまされたという気持ちと、もう一つは人生というのはこんなものなのか、何かを捨てなくてはならないということを学んだ」
金芝河は今、過去10年間続いた進歩政権、特に盧武鉉(ノ・ムヒョン)前政権を厳しく批判する。

「私は我慢した。少しでもましな政治をするなら我慢しようと思った。
しかし、公金を自分のポケットに入れるようなやつらを見て我慢ができなくなった。最近、あまりに悪口を言う私を見て、妻はよく今まで我慢したねと言う」

市場の三機能

 しかし、金芝河は今の世界の状況を楽観的に見ているという。「現在の状況は、米国式新自由主義、カジノ資本主義それ自体ではもう駄目だということだ。今、世界は多極化システムに向かっているが、文明の軸は欧米から東アジアへ向かっている」と強調した。
 「市場には『互恵』『交換』『再分配』という3つの機能がある。これからは資本主義の『交換』の機能だけでは駄目で、今まで宗教が担ってきた『慈善や互恵』、社会主義に期待した『再分配』を統合する新しいシステムが必要だ」
 「古いアジアにはそういうシステムがあった。例えば一戸の農作業を村全体で取り組む『プアシ』(助け合い)や『契(ケ)』(頼母子講)のようなシステムが昔の韓国にあったし、日本にもあった。こうした『人間の顔』をした市場が可能にならなければならない」
 金芝河の闘いにゴールはない。今、華厳経と東学思想の統合を模索している。「私は旅人(ナグネ)だよ。旅人は道で死ぬものだ。今まで、やらねばならないことをやっただけだ。私は自分をそんなふうにしか説明できない」

編集後記

玄界灘を新視点で見よう 日本へ熱い期待

 金芝河は過去、日本を厳しく批判してきたが、

今後、文明の軸が東アジアに移り、その核となるのは韓国と日本だと強調、日本への熱い期待を表明した。
 「新しい花を東アジアで咲かせなければならない。そのためには、韓国と日本が手をつながなくてはならない。私は日本の悪い点も分かりながら、それでも日本の可能性を重要視している」と強調した。
 「玄界灘を行ったり来たりしながら、新しい夢を持って、アジアに新しい転機を起こさなくてはならない。玄界灘を新たな視点で見よう」と訴えた。
 金芝河は「互恵」「交換」「再分配」という3つの機能を統合する新しい経済システムを日韓が協力して生み出そうと強調した。
 また、現在の日本が持つさまざまな長所を指摘した。「日本は隠れた金を持っている。経済が危機であればあるほど、実際に使える金を持っていることが大切だ。また、女性運動や生協活動、市民運動など市民社会の蓄積がある。韓国と日本には共通の歴史的な文化的蓄積もある。日本と米国との関係が良好なことも大きな意味を持つ」
 「私は希望を持っている。大きな文明変動も最初は少数が始めなくてはならない。私が心配するのは日本の人たちがあまりに現実にとらわれ、夢が弱いことだ」
(文 平井久志、写真 ソウル支局 金閔熙、文中敬称略)=2009年3月4日配信

 「地球村」の人びとは今、何を喜び、なにゆえに悲しみ、日々の暮らしを送っているか。「@LOVE」では世界各地のラブストーリーを紹介。このほか「@コリア」「@チャイナ」「@アメリカ」「@その他地域」と五週を一クールとするこの企画では、地域ごとに主人公やテーマを立て、「今を生きる」人間模様を描く。

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1975年2月15日、ソウル市内の永登浦教導所から釈放され、支持者に迎えられた金芝河(聯合=共同)

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