TVアニメから始まった

ポップ文化の伝道者  仏で世界最大の祭典

 1978年、当時3歳だったジェフ・デュフール(35)は、パリ郊外の自宅で偶然目にしたテレビアニメにくぎ付けとなった。それまで見たことのない造形。ロボットが合体し悪と戦うストーリー。1話完結でなく、物語が次回へ連なり展開する形も斬新だった。アニメが日本製であることは後日知る。「ゴルドラック」、原題は「UFOロボ グレンダイザー」(原作・永井豪)。後に「日本ポップ文化の伝道者」となるデュフールが日本と出会った瞬間だった。

視聴率100%

 デュフールは現在、パリ郊外で毎年夏に開かれる世界最大の日本ポップ文化の祭典「ジャパンエキスポ」の主催企業SEFA代表を務める。2000年に来場者3200人で始まった「ジャパンエキスポ」は、今年約18万人が入場したとされ、日仏両政府やソフト産業がこぞって参加する巨大イベントに急成長した。
 デュフールは「すべてはゴルドラックから始まった」と切り出した。
 夏のバカンス期間、番組の「穴埋めに」放映された「ゴルドラック」は、平均視聴率75%、瞬間視聴率100%をたたき出した。テレビ局が3局しかない時代、フランス全土の子供たちが夢中になった。現在の30~40代で日本文化に関心がある人々は「ゴルドラック世代」と呼ばれる。
 「米国アニメはスーパーヒーローばかりで物足りなかった。日本アニメは多様だ。多感な10代が夢中になる恋愛ものや、『キャプテン翼』のようなスポーツもの。何でもあった」。まんがを語る口調が熱を帯びる。
 「みんなで輸入まんがを読みあさった。日本語は分からない。でも『ドラゴンボール』も『スラムダンク』も理解できた。映画のように絵が説明してくれた」
 1997年、フランス最高の高等教育機関グランドゼコールの一つでエンジニアの学位を取得したデュフールは、コンピューター会社に就職。銀行向けのプログラム作りに取り組んだ。
 一方で「ニッポンを究めたい」という思いも募る。市

民講座で2年間日本語を学んだ。仲間と日本まんがの同人誌を発行、99年には初めて日本を旅行する。3週間で福岡、大阪、京都、東京を回り、途中で日本ファンのフランス人女性旅行者と出会った。2人は2003年結婚、新婚旅行も、やはり日本。甲子園で高校野球を観戦した。

転機

 転機が訪れたのは結婚の年だ。デュフールはコンピューター会社を辞めてIDPという小さな出版社を立ち上げ、日本まんがの翻訳・出版に乗り出す。趣味を本業に変える挑戦だった。「読者は待ち焦がれているはずだと確信していた」
 賭けは当たった。00年当時、フランスで毎月翻訳出版された日本まんがは10作。現在は毎月150作に急増し、年間1600万冊が売れる。
 06年にSEFAを設立「ジャパンエキスポ」に集中した。当時の来場者約4万人。既に「おたく」の枠組みを超え、コンテンツ産業の大イベントへの移行期。来場者はその後も急拡大を続けた。
 「ジャパンエキスポ」の会場へ行くと、なぜ成功したかが分かる。「ゴルドラック」に味をしめたフランスのテレビ局は、その後も日本アニメを積極的に放映した。「ゴルドラック世代」のお父さんが「ナルト世代」の少年を連れて歩いている。90年代に日本アニメの紹介番組「クラブ・ドロテ」を見て育った「ドロテ世代」の10~20代の若者も大勢いる。
 日本アニメが期せずして築き上げた、各世代にわたる日本ファンが成功の鍵なのだ。「すべての年代の人々に楽しんでもらうよう努力している」とデュフールも認める。昨年10月には、日本文化紹介への貢献で日本の外務大臣賞を受賞した。
 伝道者の挑戦は終わらない。今後は「フランスと同様、まんがを楽しむ文化が根付いているベルギーなどでイベント開催を目指す」という。
 最後に「一番好きな日本まんが」を尋ねた。しばらく考えた後「『あしたのジョー』かな。美しい話だ」。昭和の薫りがする「涙と根性の物語」への偏愛に、一瞬だが、外国人に取材しているという感覚を失った。

ゴスロリから四国遍路まで

ごった煮のJエキスポ

 初めて「ジャパンエキスポ」を訪れた時、目まいに似た感覚に襲われた。ゴシックロリータ(ゴスロリ)で着飾ったコスプレ少女の群れと四国の「お遍路」ブースの共存。柔道場、剣道場と並んでバッティングセンターが置かれ、最新ゲームコーナーに日本のタレント「我武者羅応援団」の蛮声が響く。
 だが目まいはそのうち、得心に変わる。洋の東西を問わず、何もかも取り込んだごった煮状態こそ、現代日本そのものではないか、と。
 映像産業振興機構(VIPO)の広報室長、新屋泰造(しんや・たいぞう)は「大学祭のようなアマチュアリズムが成功の源」とみる。「バッティングセンターとか、応援団とか、おもしろいと思ったら何でも持ってくる。主催者のデュフールは日本文化のツボを心得ている」
 もともと日本文化愛好者のサークル活動から出発した。熱気は巨大化した今も変わらない。デュフールは会場で案内係のベストを着て、来場者の質問に答える。
 一方で、参加企業には不満も募る。著作権など権利関係の詰めが甘いという。例えば、スタジオジブリのトトロ人形の偽物が会場で堂々と売られている。
 デュフールは「参加希望は基本的に拒まない」と述べた。この開かれたアマチュアリズムが巨大化につれて企業の論理に取って代わるのか。新屋は「そのときがエキスポの転換点」と予測する。 (文 軍司泰史、写真 沢田博之、文中敬称略)=2010年09月01日

「地球村」の人びとは今、何を喜び、なにゆえに悲しみ、日々の暮らしを送っているか。「@LOVE」では世界各地のラブストーリーを紹介。このほか「@コリア」「@チャイナ」「@アメリカ」「@その他地域」と五週を一クールとするこの企画では、地域ごとに主人公やテーマを立て、「今を生きる」人間模様を描く。

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ジャパンエキスポの会場でコスプレを楽しむ少女たち。このままの格好で、自宅から電車やバスに乗って会場へやって来る=パリ郊外

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