「みかじめ料」拒否広がる

犯罪組織と戦う伊市民  夫や父の遺志継ぐ女性も

 パレルモはイタリア南部シチリア島最大の都市だ。南国らしくシュロの木が茂り、観光馬車が行き交う活気のある街だが、移民や失業者が多く、治安の悪さでも有名だ。
 1991年8月29日朝、自宅にいたジュセピーナ・グラッシ(81)は戸外で数発の銃声を聞いた。当時、周辺では同島の犯罪組織「マフィア」の抗争が相次いでいた。マフィアといえば犯罪組織の代名詞でもあるが、もともとはシチリアの犯罪組織を意味する言葉だ。
 銃声を聞いてもジュセピーナは「また抗争かしら」と特に気に留めなかった。しかし、しばらくして警官が来て言った。「ご主人は自宅にいらっしゃらないのでは…」
 ジュセピーナはそのひと言に凍り付き、犠牲者は夫リベロ=当時(67)=と悟った。仕事に行くため自宅を出た後、実行犯2人から5発の銃弾を浴びて即死した。
 リベロはパレルモでパジャマ製造会社を経営、欧州のほか米国や香港でも商品が売れ、業績は上向いていた。マフィアはこれに目を付け「保護」を名目に「みかじめ料」を要求していた。
 パレルモでは大半の企業がマフィアの報復を恐れ、支払い要求に応じていたが、リベロは拒否。それどころか「絶対払わない」との宣言文を地元紙に寄稿。1面に掲載され大きな話題となった。地元で反マフィア集会も開催した。
 犯行を指示したのはマフィアの「ボスの中のボス」と呼ばれた元最高幹部のリーナ=終身刑で服役中。「反マフィア運動の象徴だった夫を殺すことで、彼らは社会を脅迫した。抑えがたい怒りを感じた」とジュセピーナは振り返る。

変化の動き

 

 その後もシチリアでのマフィアへのみかじめ料支払いは続いた。変化が生まれたのは2004年6月。パブ経営を夢見ながら、みかじめ料への不安から断念した若者たちが「みかじめ料を払う人は誇りなき人」と書いたステッカーを街中に張った。
 ステッカーに共感する商店主らが、支払い拒否のための市民団体「アディオ・ピッツォ(さよなら、みかじめ料)」を設立。夫の死後、インテリア関係の会社経営を始めていたジュセピーナは、ステッカーを張った若者らを「夫の遺志を継ぐ自分の孫」のように感じ、すぐ運動に加わった。
 同団体に加入し、みかじめ料支払いを拒否する商店・会社は今や400以上に。加入店の放火などマフィアの嫌がらせもあったが、確実に賛同者を増やしている。ジュセピーナも、小中学校などでの反マフィア教育活動で、自らの体験を若い世代に語り伝えている。「私の仕事は悲劇の証人であり続けること。夫がとった行動を忘れてほしくない」

殺してみろ

 運動は南部カラブリア州にも広がった。若者を中心とした反・犯罪組織団体「アマツァテチ・トゥチ(われわれ皆を殺せ)」が誕生したのは05年10月。政争に巻き込まれた州議会副議長が同州の犯罪組織ヌドランゲタに殺されたことから、若者らが「殺せるものならおれたち全員を殺してみろ」と、挑戦的な横断幕を掲げ、町を行進したのがきっかけだ。
 1991年8月、検事だった父親のアントニーノ・スコペリティを同州で殺害されたロザンナ(26)は、「怒りに震えているのは私だけじゃない」と勇気づけられ、同団体に参加、現在はローマの責任者を務める。
 ロザンナの父は犯罪組織のメンバー400人以上が逮捕された大摘発事件の最高裁審理担当だった。出身地のカラブリア州で休暇中、ヌドランゲタによって銃殺された。
 指示をした幹部らは一審で有罪に。しかし、犯罪組織の圧力からか証言の取り下げが相次ぎ、高裁、最高裁では全員無罪に。「正義が下されなかったことに怒りを覚え、誰も信じることができなくなった」とロザンナは話す。
 しかし、アマツァテチ・トゥチに参加したことで「自信と勇気をもらった」。今は一時怖くて行けなかった父の故郷にも帰れるようになった。「不正義と戦わないことは、人間性を失うことと同じ」。ロザンナはそう心に刻み、組織との戦いを続けている。

暗部描いた作家に殺害命令

南部に集中、社会の脅威に

 イタリアの四大犯罪組織はシチリア州のマフィア、カンパニア州のカモッラ、カラブリア州のヌドランゲタ、プーリア州のサクラ・コロナ・ウニタとされる。すべて南部に集中、地域の貧しさや失業率の高さが背景にある。
 同国の商業団体によると、全組織の年間収入は計約1300億ユーロ(約17兆円)で、民間企業に例えれば、イタリア最大になるという。組織間の抗争事件も頻発しており、内務省によると、2001年7月からの4年間で640人以上が殺害されている。
 カモッラの暗部を描いた世界的ベストセラー「ゴモラ(邦題・死都ゴモラ)」の作家サビアーノ氏(30)は、近年、24時間護衛付きの生活を余儀なくされている。犯罪の実態を暴露され、摘発により打撃を受けたカモッラが殺害命令を出しているためだ。
 19世紀のイタリア国家統一前から活動が知られていた犯罪組織は、1990年代初めに検事ら裁判官を相次いで殺害、93年には同国を代表するウフィツィ美術館を巻き込む爆弾テロを実行するなど、国家との「戦争」が続いた。
 その後の大ボス逮捕などで一時衰退、要人殺害や爆弾テロなど派手な事件こそ影を潜めたものの、非合法経済活動や麻薬取引で膨大な利益を上げ、社会の大きな脅威であり続けている。(文 太田清、写真 武隈周防、文中敬称略)=2009年12月16日

「地球村」の人びとは今、何を喜び、なにゆえに悲しみ、日々の暮らしを送っているか。「@LOVE」では世界各地のラブストーリーを紹介。このほか「@コリア」「@チャイナ」「@アメリカ」「@その他地域」と五週を一クールとするこの企画では、地域ごとに主人公やテーマを立て、「今を生きる」人間模様を描く。

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マフィアの拠点の一つ、イタリア南部シチリア島のパレルモ。繁華街から少し離れると、露地に濃い闇が広がる

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