自立目指す「オバマ嫌い」

星条旗を指弾、進化論否定  草の根保守、選挙で躍進

 「テキサスは独立する!」
 カウボーイハットの似合うラリー・キルゴア(45)。柔和にほほ笑み、のんびりした南部なまりなのに、繰り出す言葉は過激だ。ワシントンのエリートがこの国に妊娠中絶を押し付け、銃を規制し、社会主義への道を歩んでいる。連中とはもうサヨナラだ―。
 「チェンジ」を叫んで世界の歓呼に迎えられたオバマ大統領は今、米国の大地にがっちりと根を張る保守派の反攻に直面している。オバマに対する保守派の拒否反応を極端な形で体現するのが、家族と聖書を大切にし「田舎者代表」を自任するキルゴアの独立運動だ。
 2009年8月下旬、州都オースティンで開かれた独立運動の集会。テキサス州政府庁舎に翻る星条旗を指し、キルゴアが「あの旗が気に入らない。合衆国政府は大嫌いだ」とまくしたてると、聴衆から歓声が上がった。
 キルゴアの主張は「おれの生き方に口を出すな」の一点に尽きる。これがテキサス人の琴線に触れる。
 「政府は小さいほど良い。家族の面倒は自分で見るから医療保険や社会保障は無用。アフガニスタンでの無駄な戦争に税金を払いたくない。(国ではなく)郡政府に実権を与え住民が自治すれば良い」

隠れた要因

 そんな主張を実現するため選挙に出続けるうち、予想外の勢いで支持が伸びた。04年の州下院選の共和党予備選では474票。06年州知事選の同党予備選で5万票、08年上院議員選の同党予備選では現職候補相手に22万5千票を獲得し19%の得票率を記録。今年4月には現職のペリー州知事がテキサス独立の可能性に言及し物議を醸したほどだ。
 19世紀にメキシコと戦って独立を勝ち取った歴史を誇るテキサス。4月の世論調査では回答者の18%が米国からの独立を支持した。
 オバマの就任後、米国では公的資金による金融機関救済や、国民の保険加入を義務付ける医療保険改革に抗議する草の根保守派運動『ティーパーティー』が全土に広がった。」 「社会主義者から国を取り戻せ」と叫ぶ参加者の多くは白人だ。独立の是非を別とすれば、キルゴアの主張はこの運動とつながっている。
 支持拡大の隠れた要因は人種問題だろう。
 オバマを黒人初の大統領に選んだ有権者は、オバマの掲げた「白人でも黒人でもなく、リベラルでも保守でもない、一つに統合された米国」という理念に共鳴したはずだ。だが就任後は国内の分断ばかりが目立つ。カーター元大統領は、オバマ批判の根底に黒人差別があると述べた。
 キルゴアはオバマの言う「一つの米国」を信じない。「人種や宗教ごとにバラバラで良いんだ。黒人を

嫌う白人はいなくならない。人種差別の自由も必要だ」。「私はオバマが嫌いじゃない」とは言うが「黒人が嫌いだから独立を望む人がいるのは間違いない」とも。

「神の導き」

 早朝に自宅の電話が鳴ったのは10月のことだ。「ラリー・キルゴアか。撃ち殺してやる」。黒人なまりの男性の声だったという。「米国を侮辱するな」という脅迫も何度か受けた。それでもやめないのは「神の声に導かれ、自由を取り戻す戦いをしている」との信念があるからだ。
 ダラス近郊の自宅居間にはいくつもの十字架が飾ってある。キリスト教福音派の教えがキルゴアを支える。祖母と両親に手を引かれて教会に通い、聖書の言葉を学んだ。中絶や同性愛はもちろん、進化論も否定する。教会で「母親になるのが夢」と話す姿に一目ぼれし求婚した妻バレリー(38)とは結婚20年目。3人の子供の父親でもある。
 選挙運動はシステムエンジニアの仕事と家庭生活の合間に手弁当。専従運動員はおらずボランティア十数人だけ。講演会に招かれれば自分でハンドルを握る。活動の主な拠点はウェブサイトだ。
 「2008年の選挙じゃ7千ドルも掛かったの。うー、7千ドルよ」と妻のバレリー。他の候補者より2けたは少ない支出だろうが、年収9万ドルでマイホームのローンを抱えるキルゴア家にとって小さな額ではない。「でも22万票も取っちゃってびっくり。神のお導きよね。彼の声は届いているのよ」

深い断絶、言葉も通じず

米の保守派とリベラル派

 米国にはキルゴアとは対極的な立場の人たちもい

る。例えば、ニューヨーク近郊に住むユダヤ人女性ティーガン。テキサス取材の帰路に出会った。黒人の夫との間に幼い子供が2人。イスラエルで過ごした時期もあるという。今は有機野菜の普及と公立学校の給食改善に取り組んでいる。
 人種、中絶、銃規制、地球温暖化対策など国内世論を二分するあらゆる問題で、彼女はキルゴアとは徹底的に意見が異なった。キルゴアを「田舎の保守派」の一典型とすれば、ティーガンは「都市部リベラル派」の典型だ。
 テキサス独立派の主張について、ティーガンは「言葉が通じない感じがする」と言う。
 キルゴアとティーガンの意見の差に見られるように、米国では保守派とリベラル派の分断が深まっている。特に米国民主主義の根幹をなす議会で、共和党と民主党はまさに言葉が通じないような状況だ。大目標のための妥協や前向きな協議のないまま重要法案は足止めを食う。
 米シンクタンク、カーネギー国際平和財団のマシューズ会長は、特に上院について「世の中の真の問題から完全に遊離し、まったく機能していない」と嘆く。
 前評判だけでノーベル平和賞受賞が決まったオバマ大統領。「核兵器なき世界」への前進も、国内のリベラル派と保守派の融和が鍵となる。(文 木村一浩、写真 鍋島明子、文中敬称略)=2009年12月02日

「地球村」の人びとは今、何を喜び、なにゆえに悲しみ、日々の暮らしを送っているか。「@LOVE」では世界各地のラブストーリーを紹介。このほか「@コリア」「@チャイナ」「@アメリカ」「@その他地域」と五週を一クールとするこの企画では、地域ごとに主人公やテーマを立て、「今を生きる」人間模様を描く。

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米テキサス州ダラス近郊にあるバレリーの勤務先で、妻を抱き締めるキルゴア。結婚前には「家のことは全部おれが決める」と宣言したものの、家庭の実権を握るのはバレリーだ。「もう友達感覚ね」という彼女に、「本当は今もラブラブさ」とキルゴア

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