よみがえれ絶滅動物 

「人類の過ち正したい」  創始者の思い継ぐ人々 

 雄大な岩山の麓に広がる緑豊かな自然保護区に、その動物の群れはいた。シマウマのようだが 臀部 (でんぶ) や脚部にしま模様がほとんどない。「あれが『クアッガ』だよ」。南アフリカ西ケープ州の保護区の管理員バーナード・ウディング(39)が、口笛を吹きながらゆっくり群れに近づく。
 かつて南アの草原には群れをなしたクアッガが駆け回っていた。しかし入植した白人が狩猟で乱獲、1883年に最後の一頭がオランダの動物園で死んだ。それから100年余を経た1987年、同種のシマウマを選別交配させてクアッガの復活を目指す計画がケープタウン周辺で始まった。
 プロジェクト創始者のレイノルド・ラウは2006年2月、74歳で死去したが、「人類の愚かな過ちを正したい」という遺志はウディングら仲間によって引き継がれた。

そこから始まった

 体の後ろ部分が茶色でしま模様がなく、ロバとシマウマを足して2で割ったようなクアッガは、長く「独立種」と信じられてきた。だが、はく製技師として1959年からケープタウンの博物館に勤務したラウは「シマウマの一種」と確信した。
 ドイツ生まれのラウは子どものころ、ドイツの動物園が絶滅したウシの一種を交配で復活させようとした取り組みに感銘を受けたことがある。欧州各地を回り、残っているクアッガのはく製23体のうち21体を調査。動物学者にも相談するなどし、特徴が似たシマウマの掛け合わせによる復活計画を立案した。
 博物館にある標本から採取した肉片のDNA鑑定などを米国の大学に依頼、その結果、クアッガはサバンナシマウマの亜種と判明した。
 「全てはそこから始まった。クアッガの遺伝子がサバンナシマウマに残っているなら、4世代ほど交配が進めばクアッガの特徴を持つ動物が生み出せると考えた」。発足時からプロジェクトに携わる遺伝学者で元大学教授のエリック・ハーリー(72)が振り返る。
 87年、しまの少ないサバンナシマウマ9頭を隣国ナミビアから移送し、交配を開始。10人足らずで始めたプロジェクトだったが次第に拡大し、交配に使うシマウマも百数十頭に増えた。

2005年、クアッガに良く似た第3世代の子馬が誕生する。ラウらの努力が実を結んだ瞬間だった。
 ただ、プロジェクトに対しては当初から、科学者や環境活動家らの批判も多数あった。「自然の操作だ」「絶滅寸前の動物を救うべきだ」「実物のはく製に比べ体の色が白い」「外見だけでは本当の復活と言えない」…。

復元プロジェクト

 多くの生物を絶滅に追い込んだ「人類の過ち」の修正を目指すプロジェクトチームは、批判を率直に受け止める。ハーリーは「『保護』でなく『復元』プロジェクトだ」と強調。「既にクアッガ復活に成功したと言えるが、批判を考慮して『ラウ・クアッガ』と呼ぶことにした」と言う。
 プロジェクトの創始者で中心人物だったラウを失ったとき、チームには動揺が走った。だが、自らも農場主として交配用のシマウマを引き受けていたクレイグ・ラードナー(49)が「計画を進めるべきだ」と強く主張し、民間非営利団体(NPO)を設立した。
 取りまとめ役に就いたラードナーは寄付頼みだったそれまでの運営方法を見直し、プロジェクト推進に必要なシマウマを除く数十頭の売却を提案するなど、資金確保にも乗り出した。
 シマウマに家族の名前を付けてかわいがっていた農場主からは反発も出たが、ラードナーは「成功させるために必要なんだ」と説得。全データをデジタル化しウェブサイトも立ち上げ、成果を地元住民に披露することも検討している。
 チームの目標は、外見はクアッガと変わらない「ラウ・クアッガ」の群れを10年以内に国立公園など一定の自然環境に放つことだ。
 ラードナーは、自然を愛しクアッガ復活に生涯を懸けたラウに思いをはせる。「ラウの夢が現実となるその日、彼はどこかから僕らを見て喜んでくれるだろうよ」

ライン

「絶滅種の復活」現実的に 遺伝子技術進歩で

 有史以来、乱獲や自然破壊など人類の活動の影響で多くの生物が地上から姿を消した。国際自然保護連合(IUCN)によると、世界で絶滅した動物種は16世紀以降、クアッガを含め700を超える。
 絶滅は本来「不可逆的」なものだが、絶滅動物の復活を目指す試みは世界各地で続けられている。特に近年の遺伝子技術の進歩で、復活が「夢物語」でなく現実的なものになりつつある。
 現存する特徴が近い動物を選別交配させて絶滅動物の復活を目指す取り組みは20世紀前半から複数行われてきた。幼かったレイノルド・ラウが感銘を受けたドイツの動物園によるウシの一種オーロックスの復活計画もその一つだ。ただ、外見の似た個体は誕生しているが、いずれも「復活」とは認められていない。
 最近は絶滅動物復活に向けたDNA研究などが盛んだ。オーストラリアの大学は1936年に絶滅した肉食の有袋類、タスマニアタイガーの標本から採取したDNAの機能を他の動物の体内で復活させたと2008年に発表、将来のクローン誕生が可能になったとしている。また、マンモスをクローン技術で復活させようとする研究も近畿大などで進められている。
 南アフリカのクアッガ復活プロジェクトも「将来的にクローン技術を導入する可能性がある」という。(文 吉田昌樹、写真 中野智明、敬称略)=2012年11月14日

「地球村」の人びとは今、何を喜び、なにゆえに悲しみ、日々の暮らしを送っているか。「@LOVE」では世界各地のラブストーリーを紹介。このほか「@コリア」「@チャイナ」「@アメリカ」「@その他地域」と五週を一クールとするこの企画では、地域ごとに主人公やテーマを立て、「今を生きる」人間模様を描く。

secondpicture

南アフリカ西ケープ州の農場で行われた定例会議後、談笑するエリック・ハーリー(中央)ら「クアッガプロジェクト」のメンバー。欧州各地に残るクアッガのはく製を写したポスターも作った