廃虚の首都のレストラン

戦火の祖国に24年ぶり帰還  「再建に新しい波を」

 20年以上も内戦状態が続くソマリアの首都モガディシオは廃虚と化しているが、その前に広がる海は美しい群青色に輝いている。イスラム教の神聖な月、ラマダン(断食月)の明けた8月下旬、着飾った家族連れでにぎわう海辺のレストランの 厨房 (ちゅうぼう) で、アハメド・ジャマ・モハメド(46)はこの4年間の日々を思い起こしていた。
 ロンドンでソマリア料理店を営んでいたアハメドは2008年11月、戦火のモガディシオに約24年ぶりに帰国。「祖国再建へ新しい波を」との思いを胸に廃虚の街にレストランを開業した。首都の戦闘がほぼ終息した昨年8月以降、事業を拡大、わずか1年で首都と近郊に複数の店を構えた。
 「自分が成功すれば、みんながまねをして帰国しようと思うかもしれない」。アハメドはこう語り、内戦で国外に避難した「ディアスポラ(離散の民)」と呼ばれるソマリア人に、帰国と復興への参加を呼び掛ける。

恩返し

 1966年、モガディシオで家畜の貿易業を営む中流家庭に生まれた。隣国ケニアに留学後、親戚の支援を得て89年に英国へ。「他のソマリア人男性がやらないことをやろう」と4年間、ロンドンで料理学校に通った。
 「在学中からいろんな店で修業し、中華料理店でも働いた」。ソマリア人女性と結婚後、2001年にロンドンで待望の店をオープン。英国の市民権を取得し、3人の子供にも恵まれた。
 一方、祖国は1991年にバーレ政権が崩壊後、氏族単位の武装勢力が群雄割拠する無政府状態に陥っていた。「ロンドンで耳にする祖国のニュースはいつも戦争のことだけ。悲しかった」。アハメドは祖国に残る親族に送金を続けた。
 帰国は独断で決めた。当時はイスラム過激派組織アルシャバーブが首都で勢力を拡大、暫定政府側との戦闘が激化していた。「狂ったのか」と周囲に翻意を促されたが、「生まれ育った国に恩返ししたいんだ」と突っぱね、ロンドンの店は妻に任せて帰国した。
 モガディシオ中心部に1号店を開店したが、戦闘はすぐ近くまで及び、流れ弾で客が

大勢負傷したこともあった。
 昨年8月、内部対立などで弱体化したアルシャバーブが撤退し、首都の戦闘がほぼやんだ。欧州風にアレンジしたソマリア料理を出すアハメドの店は、増え始めた帰国者や援助関係者の人気スポットに。従業員を70人以上に増やし、アルシャバーブの支配地域だった首都郊外の海辺に宿泊施設付きの店も出した。

自爆テロ

 近海で取れた新鮮な魚やロブスター、子羊や鶏肉のロースト、イタリア直輸入のパスタ、ソマリア風ピラフ…。メニューにはさまざまな料理が並ぶ。価格は主菜が最低1万5千ソマリアシリング(約720円)と現地ではかなり高めだが、客の一人で商店主アブディガース・オスマン(39)は「海を見ながら食事を楽しむなんて20年以上あり得なかったよ」と満足そうな笑顔を見せる。
 ただ、試練も多い。首都ではアルシャバーブのゲリラ攻撃が依然として続き、9月20日夜には大統領府に近いアハメドの2号店で自爆犯2人が爆弾を爆発させ、客や従業員ら少なくとも15人が死亡、多数が負傷した。
 各店の入り口には自動小銃を持った警備員を配置し客の身体検査も行っていたが、犯行を防げなかった。アハメド自身、今年4月に2号店付近の国立劇場で起きた自爆テロで負傷した経験がある。右頬 から摘出した爆弾の破片の写真を見せ「これが現実さ」と嘆きながらも、「絶対にあきらめない」と2号店以外の店の営業は続けている。
 政府当局者からの度重なる賄賂の要求も頭痛の種だ。だが、アハメドは祖国の未来に期待を抱いている。「ディアスポラが帰国して手を取り合えば、ソマリアを立て直せる。第2次大戦後の日本が復興できて、われわれになぜできない」。ロンドンなまりの英語を流ちょうに話すアハメドに「夢は?」と尋ねると、「客が銃を持たず店に来られる社会。つまり平和さ」と相好を崩した。

「男らしさ」も今は昔

「破綻国家」の混乱続く  首都は徐々に平静回復

 「破綻国家」と呼ばれるソマリア。首都モガディシオは昨年8月にイスラム過激派組織アルシャバーブが撤退、大規模な戦闘は終息し、徐々に復興が進み始めた。ただ、首都では今も自爆テロが続発、国土は事実上の分断状態で、近海では海賊が横行し、混乱解消のめどは立っていない。
 モガディシオは「世界で最も危険な都市」といわれたが、現在は建設ラッシュに沸く。街灯も設置され、市民が街を出歩く。少し前までならあり得なかった光景だ。
 9月には正式政府の大統領に学識経験者のハッサン・シェイク・モハムド(56)が選出された。内戦で国外に脱出したソマリア人の帰国も始まり、経済もようやく活性化しつつある。英国から帰国した実業家のディリエ・アブディ・アデン(50)は「誰もが『今度こそ平和を』と期待している」と話す。
 政府と敵対するアルシャバーブは劣勢になりつつあるが、政府側が掌握するのは首都を含む国土の一部に限られたままだ。北西部で1991年に独立宣言した「ソマリランド」は、正式政府への参加を拒んでいる。
 海賊被害は、日本の海上自衛隊など各国の護衛活動で減少傾向にあるが、半面、海賊の過激化が指摘されている。8月には身代金の支払いの遅れを理由に、初めて外国人の人質が殺害された。(文 吉田昌樹、写真 中野智明、文中敬称略) =2012年10月10日 

「地球村」の人びとは今、何を喜び、なにゆえに悲しみ、日々の暮らしを送っているか。「@LOVE」では世界各地のラブストーリーを紹介。このほか「@コリア」「@チャイナ」「@アメリカ」「@その他地域」と五週を一クールとするこの企画では、地域ごとに主人公やテーマを立て、「今を生きる」人間模様を描く。

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アハメドが今年オープンしたモガディシオ郊外のレストラン前には美しい海が広がっていた。大人や子供たちが海水浴を楽しむ姿は、少し前までは見られなかった