失われた歌、祖国で再び

音楽を奪ったタリバン  帰国のポップス歌手に熱狂

 豊かなひげを蓄えた民族衣装姿の男性たちが両面太鼓の奏でる軽快なリズムに乗り、両手を振り上げて踊る。赤、緑、黒3色の国旗を笑顔で振る男の子の姿も。観客の熱い視線が、舞台で母国アフガニスタンへの思いを歌い上げる男性に注がれていた。
 南部ヘルマンド州ラシュカルガーに設置された屋外コンサート会場。旧政権時代に音楽を禁じた反政府武装勢力タリバンが依然として影響力を持つ地域の一つだが、集まった観客約4万人の熱狂は最高潮に達していた。その真ん中で、黒いターバン姿の国民的ポップス歌手ファラド・ダリヤ(49)が歌声を響かせる。
 旧政権時代には想像すらできない光景だった。「とにかくみんな音楽に飢えていた。これまで戦争しか見てこなかったから。タリバンのメンバーも会場にいたよ。結局、みんな彼の歌が好きなのさ」。観客のムスタファ・ガフォリ(40)は笑顔で語った。

投獄そして亡命

 ダリヤは内戦下の弾圧を逃れ、約13年にわたり欧米で亡命生活を送った。その半生は絶え間ない争いに 翻弄 (ほんろう) され続けたアフガンの歴史と重なる。
 歌手として活動を始めたのはソ連軍がアフガンに軍事介入した1979年だった。地元の名門大学カブール大で文学を専攻していた10代後半に同級生とバンドを結成。複数の民族が集まる「モザイク国家」でそれぞれが使う言語のダリ語、パシュトゥン語、ウズベク語などで歌う曲は若者を中心に大流行した。
 曲はいつしかソ連の侵攻に反発する「プロテストソング」(抗議の歌)に。影響を恐れた親ソ連の当時の政権は81年に歌を放送禁止にし、ダリヤは2度も不当に投獄された。89年にソ連軍が撤退した後は、軍閥による抗争で内戦が始まった。  「仲間の音楽家は次々と殺され、友人も武器を取って戦わざるを得なかった。身を削られる思いだった。僕は残ってこの国のために歌いたかった。でも、もう歌える国ではなくなってしまった」
 90年秋、後ろ髪を引かれる思いでアフガンを離れ、ドイツに渡った。「移民」という肩書に抵抗を感じ不法滞在を続けた。紛争地から来たアフガン人に対する周囲の目は厳しく、フランスや米国にも移り住んだ。

 ダリヤが欧米で亡命生活をしていた96年、アフガンではタリバンが首都カブールを制圧して政権を獲得。独自のイスラム教解釈に基づく恐怖政治を敷いてテレビやラジオの視聴を禁じ、街からは歌が消えた。音楽好きの国民は家の奥でこっそりとカセットテープを聞くしかない日々が続いた。

女性や子どものため

 2001年にタリバン政権が崩壊、転機が訪れた。タリバンと対立していた北部同盟が同年11月13日にカブールのラジオ局を同政権から奪回、放送再開を知らせるより前に流したのはダリヤの代表曲「 愛 (いと) しのカブール」だった。
 ♪アフガン人の苦しみのため自由に歌を歌わせて 家を持たずにさまようわが人々のために♪
 これからは人目をはばからずに堂々と音楽を楽しんでいいんだ—。タリバン政権が消滅し、多くの国民がそう感じることができた瞬間だった。「私にとって最高の日の一つになった」。ダリヤは自らの曲が放送されたことを米国で知り、祖国に戻ることを決意した。
 03年からアフガン国内で精力的に音楽活動を再開、各都市でコンサートを行った。観客を女性だけに限定したことも。保守的な思想が残るアフガンでは極めて異例だった。ダリヤは「戦争をし、人を傷つけてきたのは男。女性や子どものために何かしたかった」と語る。
 本業の傍らカブールにあふれるストリートチルドレンの生活や教育のために資金援助もしている。「この国では音楽家は人を支える役割もある」との信念があるからだ。
 アフガンはタリバンの自爆テロが絶えず、和平の道筋は見えない。だが、ダリヤは希望を持ち続けている。「この国は問題を抱えている。でも少しずつ良い方向に向かっている。だって今は歌えるのだから」

グレートゲームの舞台

覇権争いで絶えない戦火

 アフガニスタンは歴史的に大国や周辺諸国が中央アジアの覇権を争う「グレートゲーム」の舞台として戦乱が続き、国土は荒れ果てた。旧ソ連の侵攻を経て、乱れた秩序を恐怖政治で統制した旧タリバン政権が崩壊して10年以上たつが、タリバンは反政府武装勢力として復活、治安部隊への自爆攻撃を頻発させており戦火は今も絶えない。
 大統領カルザイは現政権の治安確保の失敗を率直に認めており、同国に展開する国際治安支援部隊(ISAF)の撤退が2014年に迫る中、政権とタリバンとの和平交渉が急務となっている。
 カルザイは今年に入り、タリバンを「兄弟」と呼ぶなど、和平を模索する発言がにわかに増えた。一方、武力闘争を続けてきたタリバンも今年に入って初めて最大の部隊を駐留させている米国との捕虜交換協議を認めるなど、歩み寄りの兆しが見える。  タリバン内で最強硬派とされた宗教警察の元長官カラムディンは、テレビや音楽の禁止は行き過ぎだったと認めるなど、タリバンの「原理主義」イメージを軌道修正する試みも出始めた。
 今後、和平交渉の鍵を握るのは、タリバンが唯一の交渉相手としている米国の出方だ。米国が本腰を入れて交渉に臨むのかどうかでISAF撤退後のアフガン情勢が変わるとの見方が強い。(文 高木良平、文中敬称略)

「地球村」の人びとは今、何を喜び、なにゆえに悲しみ、日々の暮らしを送っているか。「@LOVE」では世界各地のラブストーリーを紹介。このほか「@コリア」「@チャイナ」「@アメリカ」「@その他地域」と五週を一クールとするこの企画では、地域ごとに主人公やテーマを立て、「今を生きる」人間模様を描く。

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アフガニスタンの首都カブールにある事務所で、自らが支援する子どもたちと写真に納まるファラド・ダリヤ(中央)。久しぶりに会った子どもたちが学校の様子などをうれしそうに話す姿に、にこやかな表情を見せていた(撮影・安井浩美)