父は伝説のゲリラ司令官

出生の秘密知り独立運動に 志を継ぐ国づくり

 アレックス・フレイタス(32)が生まれて初めて実父に会ったのは13歳の時、東ティモール東部の山岳地帯に広がるジャングルだった。射るような鋭い目つきが今も鮮烈な印象として残る。父ダイトゥラは、インドネシアからの独立のために戦う伝説的なゲリラ司令官として名をはせていた。
 アレックスは1979年、ティモール島東端のロスパロスで生まれた。当時、父は「東ティモール独立革命戦線(フレティリン)」の軍事部門幹部としてジャングルに潜伏、グスマン(現首相)の下で戦闘に明け暮れていた。

「大きくなったな」

 ゲリラ兵士を血眼で探すインドネシア軍に監視された町で、母親はひっそりとアレックスを産んだ。「私の息子と知られれば、インドネシア軍の嫌がらせを受ける。別の男と再婚してくれ。おまえとアレックスを守るためだ」。その母にダイトゥラはこう伝えてきた。
 泣く泣く言いつけに従った母は、幼いアレックスを背負って別の町に居を移し、武器を捨てた元ゲリラ兵士と再婚した。アレックスは出生の秘密を知らないまま、普通の少年として育った。
 92年のある日、母親はアレックスに打ち明けた。「あなたの本当の父親はジャングルで東ティモール独立のために戦っているゲリラの司令官よ」
 「なぜ俺を置いていったんだ」。アレックスは父に会おうと、ジャングルと町を行き来するゲリラ兵士に伝言を頼み、何度もやりとりしてようやく念願がかなった。
 東部バウカウ県のジャングルで初めて息子と対面した迷彩服姿の父は、「大きくなったな」と言ったきり、しばらく言葉を継げなかった。そして、アレックスの写真を見たことがあると告げた。ダイトゥラを投降させるため、インドネシア軍が隠し撮りした写真をジャングルにばらまいていたのだという。「降伏しなければ息子に危害を加える」という脅しだった。
 なぜダイトゥラの息子であることを知られたのかは分からない。だが、母がそれを察知し、アレックスに出生の秘密を明かしたのだろう。

父親譲り

 ゲリラの間でダイトゥラの神出鬼没の戦術は語り草になり、英雄視されていた。アレックスは父を見て、自らも独立運動に身を投じることを決意、養父と母に迷惑をかけまいと15歳で家を出た。
 ディリなどを転々としながら、反インドネシアのデモに加わった。血気盛んな若者たちを集めて軍との衝突も辞さないデモ隊を率い、インドネシア軍に3度拘束された。
 闘争が激しさを増していた97年6月25日。ダイトゥラは戦闘中に右手足を銃撃され重傷を負ってインドネシア軍に拘束され、それきり音信が途絶えた。42歳だった。
 「普通に考えれば、生きてはいないだろう」と話すアレックスだが、「どこかでまだ生きていると信じたい」とかすかな希望も抱く。
 東ティモールは2002年5月20日、悲願の独立を果たした。アレックスは結婚して3人の子供に恵まれ、今は首都ディリで小さいながらも建設会社を経営している。
 独立はしたものの政情不安は続いた。06年の軍将兵の反乱では15万人もの国内避難民が発生したし、08年には大統領と首相が銃撃される事件も起きた。汚職がまん延、産業は育たず、荒廃した国土の復興の道筋はいまだについていない。
 父親譲りの 精悍 (せいかん) な顔立ちをしたアレックスは30度を超す暑さの中、海岸沿いのホテルでブラックコーヒーをすすりながら父の思い出を語った。穴だらけの道路の向こうに、南国の太陽に照らされた群青色の海が広がる。
 ダイトゥラが生きていたら今の東ティモールをどう思うだろう。アレックスが「自分たちの努力は何だったのかと失望するだろうね」とぽつり。
 近く仲間とともに、元ゲリラ兵士やその家族を支援する団体を立ち上げる。元兵士らを社会に取り込み、復興を加速させたいとの願いからだ。
 「父たちは独立のため命をかけた。その思いを無駄にしていいはずがない」。父の志を継ぐ国づくりは続く。

多難な新国家建設

元兵士らに根強い不満

 岩手県ほどの面積に約115万人が暮らす東ティモールは今年5月、インドネシアからの分離独立10周年を迎える。独立闘争などで破壊されたインフラの復旧は遅れ、貧困も深刻で、国民からは独立したことへの疑問すら出ている。
 ティモール島は16世紀にポルトガルが占領したが、同国の撤退決定で独立派とインドネシア併合派の内戦となり、1976年にインドネシアが併合を宣言。99年の住民投票を経て2002年に独立したが、治安はその後も安定していない。
 人口の41%が1日当たり0・88ドル(約72円)以下で生活し、44%は栄養失調の状態とされる。失業率も若年層では40%に上るとの統計もある。
 国家収入の95%は、近海で採掘される石油と天然ガスの収益に依存。雇用の受け皿となるのは農水産業以外になく、新しい産業創出のめども立たない。
 不安定な電力供給や劣悪な道路事情などが、産業発展に不可欠な外資の誘致を阻む。学校教育の水準は低く、周辺国と比べ人件費が割高なことも足を引っ張っている。
 独立闘争に参加したゲリラ兵士や遺族への支援も不十分だ。「独立のため血を流した者が見捨てられている」との不満が根強く、社会の不安定要因になっている。3月の大統領選では、いずれの候補者も貧困解消と元兵士らの救済を訴えた。(文 小玉原一郎、文中敬称略)=2012年04月18日

「地球村」の人びとは今、何を喜び、なにゆえに悲しみ、日々の暮らしを送っているか。「@LOVE」では世界各地のラブストーリーを紹介。このほか「@コリア」「@チャイナ」「@アメリカ」「@その他地域」と五週を一クールとするこの企画では、地域ごとに主人公やテーマを立て、「今を生きる」人間模様を描く。

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独立のために戦った、伝説的なゲリラ司令官の父ダイトゥラについて語るアレックス=ディリ(撮影・小玉原一郎)