暴力の国のユートピア

環境技術駆使し自給自足  不毛の平原に45年

 左翼ゲリラや麻薬密売組織によるテロ、誘拐が横行する南米コロンビア。その東部に広がる不毛の平原地帯に45年にわたって住み続け、最先端の環境技術を駆使して自給自足の生活を送る人々がいる。「奇跡のエコ村」と呼ばれる集落「ガビオタス」の住民約200人は暴力を否定、ゲリラからも一目置かれて攻撃を受けたことはない。創設者のパオロ・ルガリ(67)は「現代のユートピアだ」と胸を張る。
 首都ボゴタの東約350キロ、果てしなく広がる平原を飛ぶ軽飛行機の目前に突然、鮮やかな松林が出現した。高度が下がるにつれて近代的な建物が見えてくる。滑走路に降り立つと、ムッとした暑さと湿気に包まれた。
 「ジャノ(平原)」と呼ばれる低木と草地のサバンナ。風は弱く、1年の3分の2が雨期。蛇行した川や三日月湖の水は濁って飲めず、痩せた土地は農業に適さない。先住民以外はほとんど住む人もいない。

成功と失敗

 だが、ガビオタスの風景は周囲と違う。微風でも回る飛行機の翼のような羽根が付いた小型風車。地下約40メートルから純度の高い水をくみ上げる校庭のシーソー。建物脇の太陽光パネルは弱い光でも水を湯や飲用に変える。
 1960~70年代、ヒッピーらがつくる「エコ村」が世界中で生まれた。イタリア移民で弁護士の父を持つルガリは学生時代にアジアの農村開発を研究した。「最も不毛なジャノでできれば、どこでもうまくやれるはずだ」。67年、近代的で持続可能な生活を送れる集落建設を決意する。
 名前の由来は、オリノコ川上流域の川面を舞う「ガビオタス(水鳥)」だ。政府と交渉し1万ヘクタールの使用許可を取得。科学技術を学ぶ学生や専門家を募って技術開発に専念、新製品を売って次の開発費に充ててきた。
 数多くの失敗と成功が繰り返されたが、「51%成功すればいい。失敗と批判を恐れてはならない」がルガリの信念だ。
 風力発電には風が弱すぎた。ウシのふんからつくったメタンガスは火力が弱く満足な発電や料理はできない。落差1メートルの水流でも発電できる小型タービンはオイルショック時にはかなり売れたが、故障しても農民には修理できず放置された。

 一方、太陽光パネルの給湯システムはボゴタの集合住宅に導入された。タンクが千棟以上の屋上に並び、大きな収入源になった。風車は中南米全域に「ガビオタス」の名で広がる。ルガリは「特許は取らない。まねされればうれしいし、その先を行くまでだ」と言う。

創造が命

 周囲には松林が広がるが、ここにはもともと松はなかった。持続可能なエネルギー生産のため風土に合う植物を研究、90年代前半に日本政府からも支援を得てカリブ松を約8千ヘクタールに植えてきた。
 松ヤニからバイオディーゼル燃料や樹脂の一種ロジンを生産し販売。燃料はトラクターやバイクに使い、間伐した木材はバイオマス発電に使う。
 工場長のエルナン・ランダエタ(51)は在住28年、「釣りを毎日楽しめる桃源郷だ」と話す。生ごみや家畜のふんを肥料にした無農薬野菜の畑ではニワトリが走り回る。食事と家が用意され、生活費はほとんどかからない。約70万ペソ(約3万3千円)の月給はほぼ貯蓄や子どもの学費に回る。
 日中は自家発電で電話もつながり、問題は「病気の時だけ」。創設当初から暮らす住民には孫がいる人も。ルガリは「3世代以降が生活できて初めて成熟したコミュニティーと言える」と語る。
 原油価格が下がった80~90年代は新エネルギーへの関心が低下し財政危機に陥ったが、今は地下水やロジンの販売で「資金を百パーセント賄えている」。集落にはまだガソリンバイクも多く残る。次の課題はヤシ油を燃やすタービン、バイオディーゼルとガソリンの両方を使えるエンジンの開発だ。
 「持続可能な社会の実現には、状況に応じて変化し続けることが必要だ。創造をやめたらガビオタスは死ぬ」とルガリは力を込める。「ガビオタスにできることは、世界中のどこでだってできるはずだ」

コカ産地でゲリラも潜伏

安全のため訪問者制限も

 コロンビアでは長年、左翼ゲリラ、コロンビア革命軍(FARC)などによるテロと誘拐が相次ぎ、日本人の被害も多発した。ガビオタスがある東部ビチャダ州はへき地のため大きな事件は起きていないが、コカインの原料になるコカの主要産地のためFARCなどの戦闘員も多く潜伏する。
 「われわれの防衛手段は防衛しないことだ」。ルガリは非暴力を徹底、ガビオタスには武器が全くない。エンジンなどの開発拠点となる首都ボゴタの研究施設でも、街では強盗が頻発しているにもかかわらず、表に立つ警備員が持つのはおもちゃの拳銃だ。
 ガビオタスにはかつて、顔を布で覆った多数のFARC戦闘員が集落を支配下に置こうと訪れた。しかし、住民の説明を聞き、「ここはいいことをやっている」と言い残し退散したという。
 近年、政府はゲリラの掃討作戦を展開、1964年に誕生したFARCの勢力は最盛期の2万人から約8千人に減少し弱体化が進む。石油や石炭など資源価格の高騰による経済成長に伴って治安も改善しており、コロンビア全土で起きた誘拐事件は2002年の2882件から昨年は307件まで減少した。
 それでもルガリは「特に外国人は安全を保障できない」として、ガビオタスへの訪問を厳しく制限。訪問者の宿泊も認めていない。(文・写真 遠藤幹宜、文中敬称略)=2012年04月11日

「地球村」の人びとは今、何を喜び、なにゆえに悲しみ、日々の暮らしを送っているか。「@LOVE」では世界各地のラブストーリーを紹介。このほか「@コリア」「@チャイナ」「@アメリカ」「@その他地域」と五週を一クールとするこの企画では、地域ごとに主人公やテーマを立て、「今を生きる」人間模様を描く。

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コロンビア東部ビチャダ州にある「ガビオタス」で、太陽光パネルによる給湯装置を備えた家の前に立つ住民。バイクは松ヤニから作ったバイオディーゼル燃料で走るよう改造されている