平和の祈り、ラップに乗せ

音楽でトラウマを克服 7歳で銃を撃った元子供兵

 昨年7月9日、南スーダンは20年以上の内戦を経てスーダンから悲願の分離独立を果たし、世界で一番新しい独立国家となった。国民は独立の喜びに沸き、首都ジュバでは連夜、民族舞踊や現代音楽を織り交ぜた祝賀コンサートが開かれた。ラム・トゥングワル(28)はこのステージで歌いながら、自由をかみしめ心の中で涙していた。
 7歳から約3年間、子供兵として戦場に立ち、その後は隣国ケニアの難民キャンプで成長、「ロストボーイズ(迷子たち)」と呼ばれた難民の孤児だった。「俺は生き残った。これからの南スーダンの子供たちには俺のように育ってほしくない」―。そんな思いを、ラップやヒップポップ音楽で表現するラムは今、南スーダンで最も人気のある歌手の一人だ。

飢え、暴力、銃…

 1983年8月、現在の南スーダン北部ユニティ州でヌエル民族の有力者の家庭に生まれた。アラブ系イスラム教徒主導のスーダン中央政府と、同国南部のスーダン人民解放軍(SPLA)が内戦に突入したわずか3カ月後のことだ。「物心ついたころから殺し合いを見てきた」と振り返る。
 7歳のある日、村に現れたSPLA兵士に「学校に行かせてやる」と言われ、両親に告げず付いて行った。森林を何日間も歩かされ、たどり着いたのはSPLAがエチオピアに設置した軍事キャンプ。そこで南部各地から集められた大勢の子供と戦闘訓練を受けた。
 ♪俺は終わりのない戦争を戦った。隣で友達や兵士仲間が死んでいったが俺には理由が分からない。痛ましく、嘆き、叫んでいるようだった♪
 2006年にラムがケニアで発表、ソロ歌手として注目された英語のラップ曲「チャイルド・ソルジャー(子供兵)」の一節だ。飢え、暴力、銃…。歌詞そのままの陰惨な戦闘の日々が続いた。
 君は人を殺したことがあるの? ラムは目を伏せ「目をつぶってAK47(自動小銃)を撃ったら目の前で人が倒れた。戦争だったんだ…」と声を震わせる。
 戦闘に耐え切れず、90年代前半にウガンダ国境近くでスーダン軍と交戦中に脱走。見つからないように夜だけ仲間数人と移動、約1カ月後、難民キャンプに収容された。

「母国」

 キャンプでは「銃声のない静けさが、異様に感じられた」。初めて学校に通い英語を学ぶこともできたが、戦場のトラウマ(心的外傷)に苦しんだ。「カウンセラーから戦闘について尋ねられるたびに泣き、俺を助けに来てくれない両親を恨み続けた」。夜は戦場の夢ばかり見た。
 99年、SPLA側の交渉団の一員としてケニアに来た親類と再会、この親類の助けでナイロビの大学に通った。そこで出会った音楽が、心に残ったままの深い傷を少しずつ癒やしてくれた。
 「音楽には異なる立場の人たちを結び付ける力がある」。同じく子供兵出身の歌手として有名ないとこのエマニュエル・ジャルらと共に活動。ケニア周辺で名が知られるようになり、南北スーダンの和平交渉会場でも停戦を求めて歌った。南スーダンの独立前から、子供兵の救済や更生活動にも取り組んだ。
 独立達成後の今も「俺たちは和解できるけど、向こうがそうしない」とスーダンへの嫌悪感は隠せない。だが新国家を担う若者のリーダー格の一人として「再び戦争を始める余裕なんかない。平和が重要だ」と訴える。
 内戦で離れ離れになった父とは03年、十数年ぶりに再会した。母は内戦中に死んでいた。「最初は父にひどく当たった。でも、内戦中は自分も含め何もかも狂っていた。今は全てを許せる」。結婚を間近に控えたラムは「人生に感謝している」と優しい顔を浮かべる。
 ジュバにも昨年ようやく録音スタジオができた。現在は3枚目のソロアルバムを制作中だ。「この国は独立しても民族衝突や汚職など問題だらけだ。政府は本気で取り組まないといけない」。新アルバムには、アフリカ54番目の国として歩み始めた故国への愛や提言を盛り込む。そのタイトルは「母国」―。

治安、貧困など課題山積

PKOで日本の陸自派遣

 昨年7月に独立した南スーダンは外国からの支援や投資が増え、急ピッチで国造りが進められている。しかし約200万人が犠牲になった南北内戦(1983~2005年)の傷痕は深く、北部や東部では反政府勢力の襲撃や民族衝突も続発。治安や貧困対策、インフラ整備など課題は多い。
 南スーダンは熱帯気候で、気温が40度を上回ることも多い。首都ジュバを中心に建設ラッシュが続くが、ほとんどの住民は電気や水道のない粗末な土壁の民家に暮らす。ジュバでも道路は65キロ程度しか舗装されておらず、大半は凸凹だらけの悪路。国連平和維持活動(PKO)でジュバに派遣された日本の陸上自衛隊施設部隊は、道路や橋の建設を通じて新国家の安定に貢献したい意向だ。
 内戦時に海外に逃れた南スーダン人も国家建設に参加しようと続々と帰還している。ただ帰還民の急増で食料需要が増大し、収穫量不足もあって食料価格は高騰。国連は、人口の半分を超える約470万人が今年、食料援助を必要とし「数百万人が飢餓に陥る恐れがある」と警告する。
 国軍となったスーダン人民解放軍(SPLA)からは推定2万人以上の子供兵が解放された。だが、SPLAが昨年4月にも北部ユニティ州で10代の子供53人を徴兵したことが発覚、国連は「子供全員の解放」を強く求めた。(文 吉田昌樹、写真 鹿野修三、文中敬称略)=2012年03月14日

「地球村」の人びとは今、何を喜び、なにゆえに悲しみ、日々の暮らしを送っているか。「@LOVE」では世界各地のラブストーリーを紹介。このほか「@コリア」「@チャイナ」「@アメリカ」「@その他地域」と五週を一クールとするこの企画では、地域ごとに主人公やテーマを立て、「今を生きる」人間模様を描く。

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子供兵だった内戦時代について、ラムは顔をこわばらせ声を絞り出すように語った