響け、魂の叫び

軍政下のパンクロッカー  抑圧の中、しなやかに

 軍事政権による独裁が続き国際社会の“孤児”だったミャンマーは今、民主化への大きな変革の途にある。長く続いた軍政下では、人々は権力に逆らわず、声を潜めて目立たないように生きてきた。そんな中で、パンクロックに興じた少年はまさに「異端児」だった。
 赤や緑、金色に染めた髪を逆立て、耳には光るピアス。奇抜なファッションに身を固めた少年はひときわ目を引いた。ミャンマーの元祖パンクロッカー、ミョウ・ミョウ(39)の10代の姿だ。
 「やりたいようにやってきただけさ」。表現の自由が厳しく規制されてきた軍政下で過ごした青春時代を振り返る。

ありのままに

 長い髪を一つに束ね、最大都市ヤンゴンの自宅にあるスタジオで楽曲作りに励む日々だ。「好きな服を着て好きな音楽をやる。生き方は変わらないよ」と静かに語る。
 母ヌェ・イン・ウィン(66)は国民的な人気歌手で、幼い頃から音楽は常に身近にあった。だが10代のミョウ・ミョウは母が歌うポップには目もくれず、海外の親族がくれたパンクロックのテープに夢中だった。米国のパンクロックバンド「ラモーンズ」にはまり、繰り返し聴いて、テープが擦り切れた。独学でギターを覚え、作詞や作曲もするようになった。
 雨期のミャンマーはじっとりと暑い。肌にまとわりつくような湿気もお構いなく、一年中タイトな黒革のパンツに鎖などのアクセサリーを着けて通学し、市民が愛用するロンジー(巻きスカート)は「はいたことがない」と笑う。
 「生まれる国を間違えたわね」。母は、閉鎖的なミャンマーで生きなければならない息子を案じたものだ。
 18歳の時、オリジナル曲を集めた初アルバムをリリース、バンドを結成しライブ活動も始めた。耳をつんざく大音響と激しいリズム。ビルマ語で魂の底から振り絞るように歌うミョウ・ミョウのステージに、若者は陶酔した。熱狂的なファンができ、活動は順調だった。しかし「心の叫びをありのままに」との欲求は検閲の壁に阻まれる。

 「電車はフルスピードで去っていく。でもたどり着く場所はない」―。ミョウ・ミョウが作詞した曲が検閲に引っ掛かった。統制下、あからさまな政府批判は禁物だ。活動家らは歌や詩に遠回しな表現をちりばめて、メッセージを伝えるための知恵を絞る。検閲当局者は、ミョウ・ミョウの歌詞も、軍政を電車になぞらえて無能さを皮肉ったととらえたようだ。
 「どこが問題なんだよ」。ミョウ・ミョウは厳しい尋問にもたじろがず、椅子に踏ん反り返った。大勢の若者が集まり反政府集会に発展しかねないコンサートも警戒され、開催直前に突然中止されたことも。「言いなりになれば相手はつけあがり、強く出れば目の敵にされる。この国じゃ、バランス感覚が大切なのさ」。経験を重ね、当局をかわす術も身に付けた。

出会い

 けだるい会話とたばこの煙がくすぶる深夜のバー。ミョウ・ミョウは仲間と群れ、酒と女に溺れる世界に30代前半まで浸っていた。「社会への抵抗というより、ただそれがやりたかっただけだった」。2004年、元文学座の女優でヤン ゴンに留学していた池田美冬(38)と出会い、軍政の抑圧下でも変わらなかった生活が一変した。
 友達を介して知り合った2人は05年に付き合い始め、ほどなく美冬が妊娠、おなかが膨らみ始めたころ、結婚式を挙げた。「周囲には猛反対されたけど、結婚してから夜遊びもしなくなり、まるで別人のように変わった」と話す美冬のま なざしの先には、一人息子の和人(5)とはしゃぐミョウ・ミョウの姿がある。
 変わったのはミョウ・ミョウだけではない。この国は今、劇的な転換期を迎えている。10年に行われた20年ぶりの総選挙を経て民政に移管、軍政に代わり発足した新政府は改革路線にかじを切った。「ゆっくりだけど、確実な変化を感 じる。いずれ、表現の自由も約束される」。ミョウ・ミョウは音楽界にも新時代がいぶくと信じている。

半世紀続いた検閲制度

完全自由化へ、高まる期待

 ミャンマーではネ・ウィン将軍がクーデターで社会主義軍事独裁政権を樹立した1962年(当時はビルマ)以降、検閲制度が続いている。新聞や雑誌などのメディア、書籍や楽曲などもすべて当局による事前検閲が義務付けられ、反政府 的な表現は摘発されてきた。
 2010年11月、民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーが自宅軟禁を解かれた際、ミョウ・ミョウの妹で歌手のタン・ダー・ウィン(36)はスー・チーの演説に駆け付け、支持をアピールした。そのことが原因とみられ、妹の出 演番組が放送中止になったり、記事を掲載した雑誌が数カ月間出版禁止になったりするなど、事実上の「活動停止処分」を受けた。
 影響力のある著名人が民主活動に関わると、当局は見せしめのように妨害、拘束する。07年の僧侶の反政府デモを支援した俳優チョー・トゥもメディアから排除された。
 昨年発足した新政府は民主化の過程で、民主勢力との対話や経済改革、少数民族問題などと併せて、検閲制度の見直しも徐々に進めている。
 これまで許可されなかったスー・チーの記事や写真の掲載を容認し、インターネットの接続規制緩和で軍政に批判的だった米CNNのサイトなども閲覧可能になった。「表現の完全自由化も近い」とミョウ・ミョウらアーティストの期待も高まる。(文 植田粧子、写真 村山幸親、文中敬称略)=2012年02月29日

「地球村」の人びとは今、何を喜び、なにゆえに悲しみ、日々の暮らしを送っているか。「@LOVE」では世界各地のラブストーリーを紹介。このほか「@コリア」「@チャイナ」「@アメリカ」「@その他地域」と五週を一クールとするこの企画では、地域ごとに主人公やテーマを立て、「今を生きる」人間模様を描く。

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家族と一緒に過ごす時は笑みが絶えないミョウ・ミョウ。変革期を迎えたこの国で、これからの人生を歩む一人息子の和人に向けるまなざしは温かい=ヤンゴン