モアイが見守る子孫の反乱

「先祖のため」ホテル占拠  観光の島、消えゆく伝統

 南太平洋の孤島、チリ領イースター島に真っ赤な夕日が落ち、海を背に立つモアイ像の上を星が流れた。「あいつらはわれわれの土地を奪った泥棒だ」。島の先住民ラパヌイのペペ・ヒト(36)が開業を間近に控えたリゾートホテル「ハンガロア」で働く従業員をにらみ付けた。
 ホテルの敷地約1万平方メートルはヒト一族代々の土地だった。1970年、一族の代表がチリ政府に20年契約で貸した土地は軍政下の81年、勝手に売却され、2007年にスペイン資本でハンガロアの建設が始まった。
 約60人のヒト一族は、ラパヌイ以外の土地所有を認めない先住民保護法を盾に、昨年8月から半年間、完成直前のホテルを占拠した。だが、裁判所は契約書に一族代表者の署名があったことを理由にホテル側勝訴の判決、座り込みは今年2月の警官隊による強制排除で終わる。ペペや兄弟は額にゴム弾の銃撃を受け、顔面が血で染まった。ペペらも投石で応じ、双方で20人以上が負傷した。
 「スペイン語が読めない高齢者に無理やり署名させたんだ」。一族の長老格ペドロ・ヒト(51)が訴える。政府は補償金1億チリ・ペソ(約1700万円)を提示、ホテル側も雇用を約束したがヒト一族はいずれも拒絶した。周囲は当初、座り込みを行う一族を冷たく見ていたが、警官隊に襲われると全島民が結束した。「先祖の魂が眠っている土地だ。ラパヌイは先祖の近くで暮らさなければならないんだ」

移住者の島

 ラパヌイは400年ごろポリネシアから移住した。欧米の侵略やペルーによる労働者狩りでイースター島民は19世紀には一時、100人余りに激減、1888年にチリ領に組み込まれた。ラパヌイの人口は現在約2600人に増え、ペドロは「ヒト一族も400年から住んでいる」と言うが、他の島々から移住してきた人々との混血を示すように風貌はさまざまだ。

 よそ者を「侵略者」「泥棒」と呼びながらもペペもペドロも妻は本土からの移住者だ。ラパヌイの半数以上が外国や本土の人と結婚、遺伝疾患を防ぐため近親婚を避ける傾向が強くなっている。
 ペペの妻トリニダ・フェラオラ(34)は島の写真を撮りに訪れて、ペペと恋に落ちた。約3700キロの海を隔てた首都サンティアゴの出身だが、「先住民保護法がある以上、ラパヌイから土地を借りてホテルを経営すべきだ」と憤る。他のホテルは全てラパヌイが土地を貸すか、ラパヌイ自身で経営している。

モアイの恩恵

 「ヒト一族には法的根拠がない」。ハンガロアホテル支配人のホルヘ・バルドナド(37)は語る。裁判所の命令でヒト一族は敷地に立ち入ることができない。治安の良い島でこの一帯だけ警察が24時間警備する。従業員の大半は本土からの雇用だが、ラパヌイも数人雇った。ペペは「夫を亡くした貧しい人ばかりだ。われわれも認めざるを得ない。汚いやり方だ」と吐き捨てた。
 ペペの仕事は土産物作りだ。木彫りのモアイ像や器を作り、夜は観光客向けに兄弟と共に島の伝統音楽を披露する。ペドロも妻が土産物屋を経営している。「観光なしに成り立たない」とペペ。豊かな海産物と農産品で、ぜいたくをしなければ自給自足も可能だが、現金収入はほぼ全てを観光産業に依存する。
 土に魚やタロイモを埋めて熱した石を載せる調理法、腰みのや羽飾り姿の歌と踊り…。島の伝統は記念日や観光客向けの行事にしか行わなくなった。ラパヌイの言葉を話せない若者は増え、一家そろって本土のテレビ番組を楽しみにする。携帯電話会社が進出し電話やインターネットも使えるようになった。本土から運ぶため物価は高いが、免税特権を享受し、今更昔の生活には戻れない。
 器をノミで彫りながらぺぺは「代々の土地を守るのが務め」と訴える。先祖が部族の首長をかたどったとされるモアイ像。「島に観光客をもたらし、生活を支えてくれているモアイを造った先祖を弔いたいだけなんだ」

人口4千人、モアイ9百体

自然豊かな絶海の孤島

 イースター島は周囲58キロ、面積約164平方キロメートルの絶海の孤島だ。人口は約4300人、島名は1722年のイースター(復活祭)の日にオランダ人が到達したことに由来する。数千キロ離れたポリネシアの島々からイースター島にたどり着いた人々がモアイ像を造り始めたのは800~900年ごろとされる。
 像の運搬に使うために島内の木を伐採し尽くし飢饉(ききん)が発生、18世紀中ごろに始まった部族間抗争で一時は全てのモアイ像が倒された。島に残るモアイ約900体のうち約40体が日本人や米国人らによって立て直された。
 ラパヌイは1967年に市民権を獲得、民政移管後の93年には先住民保護法が制定された。95年に島の42%が国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界文化遺産に指定され、2000年に3万人だった観光客が10年には約7万人に急増した。
 観光業の日本人6人が居住。05年から住む観光ガイドの川口聖明(かわぐち・きよあき)(33)=三重県名張市出身=は「島の魅力はモアイだけではない。火口湖や海に魅せられ長期滞在する人も多い」と言う。火山岩に覆われた起伏の多い島は亜熱帯気候で日差しは強いが、海風がそよぎ過ごしやすい。
 磁気を帯びた石で島民が「地球のへそ」と呼ぶパワースポットを訪れる人も増えた。川口が運営を任されている宿泊施設もラパヌイの経営だ。(文・写真 遠藤幹宜、文中敬称略)

「地球村」の人びとは今、何を喜び、なにゆえに悲しみ、日々の暮らしを送っているか。「@LOVE」では世界各地のラブストーリーを紹介。このほか「@コリア」「@チャイナ」「@アメリカ」「@その他地域」と五週を一クールとするこの企画では、地域ごとに主人公やテーマを立て、「今を生きる」人間模様を描く。

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チリ・イースター島でリゾートホテル「ハンガロア」の前に立つペペ(中央)。双子の娘たちも、ヒト一族が建設に反対したホテルを厳しいまなざしで見つめていた

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