小さな島の大きな挑戦

自然の力で全ての電気を 地域ぐるみで風車建設

 8月下旬のデンマーク。人の背丈より高く育ったトウモロコシの葉を揺らす風は秋の香りを帯びている。首都コペンハーゲンから西に100キロ余、ユトランド半島に近い小島、サムソ島の畑の景色を際立たせているのは、畑の中に並んで天を指す5本の巨大な発電用の風車だ。
 「この風車は20軒の農家が資金を出し合って建てた。発電の収益は出資者だけでなく、島の人々にも還元される。地域の貴重な財産さ」とゾーレン・ヘルマンセン(52)は誇らしげだ。

地域で支える

 面積は沖縄本島の10分の1足らず、人口約4千人のサムソ島。静かに回るこれらの風車なしに、この小さな島の存在が世界に知られることはなかっただろう。
 「地上に11本、沖合洋上に10本、計21本の風車がつくる電力は、島で必要な電力を全てまかなって余りある」とゾーレン。世界初となる「自然エネルギー100%の島」を実現した立役者だ。
 その挑戦が始まったのは1997年。政府は「10年間で全ての電力を自然エネルギーに転換する」ことを掲げ、コンペでサムソ島の計画が選ばれた。
 「島の小規模農業を取り巻く状況は厳しさを増し、工場は閉鎖され、若者は島から出て行った。ただでも少ない人口がさらに減り始めていた。島にはみんなが前向きに取り組める大きな目標を持つことが必要だったんだ」と当時を振り返る。
 ゾーレンは「島の住民全員に会って、計画の話をしよう」と思った。会合という会合に時にはビールを持って顔を出し、化石燃料を使い続けることの問題や風力発電の魅力を説いて回った。
 「そりゃあいい計画だ。でも自分がやることじゃない」「風車はいいけど自分の土地にはごめんだ」―。人々のこんな反応を少しずつ変えていくのに2年を費やした。
 「小さな島なのだからみんながみんなを見ている。限られた人だけが風車を建て、利益を得られるような仕組みではことは進まない」。ゾーレンは「地域で支える風車」にこだわった。

 地域の共同所有の形で最初の風車が建設されたのは99年。2007年までに11基の風車が建ち、10年をかけずに目標を達成、今では余剰電力を島外に売るまでになり「島民の二酸化炭素の排出量はマイナスになる計算だ」とゾーレンは笑う。

全ての国

 ゾーレンは今、08年に設立された研究施設「サムソ・エネルギー・アカデミー」の代表だ。人々は今、サムソ島を「エネルギーの島」と呼ぶ。自然エネルギーが注目を集める中、国内外から多くの見学者が訪れる。
 「温暖化による海面上昇で南太平洋の島国は消滅の危機にある。国がなくなったとき、自分たちのパスポートは国際社会でどんな意味を持つのか、真剣に考え始めた。温暖化の影響から彼らを救うことを全ての人が真剣に考えなければならない」。救助用の浮輪を手に、セミナー参加者に語りかける。
 サムソ島を中心に置いた世界地図を見せ「サムソは確かに世界の自然エネルギーの取り組みの中心にある。でも、常に自分が中心だから正しいと思っていては理解は得られない」と訴える。
 長い経験の中で身につけたコミュニケーション能力は、多くの人の心をとらえて離さない。
 「最初は彼が何を言っているのかさえよく分からなかった」という島民の一人は「背広姿の韓国人3人が雨でずぶぬれになりながら突然、訪ねてきたこともある。サムソが知られるようになり、アカデミーもできて、異なるタイプの観光客がたくさんやってくるようになった」と語る。
 6月、宮城県東松島市などの被災地を訪ねたゾーレンは「自然の力の巨大さと原発事故の恐ろしさをあらためて知った」と言う。「自然エネルギーの利用は全ての国が進めないといけない道だ。日本にはそのための豊かな資源があるし、被災地の復興にもきっと役に立つ。サムソのまねをする必要はない。でも、日本人がサムソから学ぶことはできるはずだ」

電力を「地産地消」で

日本にもある市民風車

 ゾーレンがサムソ島でこだわった市民出資は、地域に根差した「電力の地産地消」を実現する手法として注目され、各国に広がっている。デンマークでは風車の80%が個人か地域社会の所有といわれる。
 ゾーレンと20年近くの友人だという環境エネルギー政策研究所長の飯田哲也は「大企業が突然やってきて風車を建てるという形ではなく、計画段階からの意思決定にも事業にも地域の人々が参加し、事業からの利益が地元に回るという形が自然エネルギーの拡大に何より重要だ」と指摘する。
 規模は小さいものの、日本でも市民出資による自然エネルギー開発は進んでいる。民間団体の「北海道グリーンファンド」(札幌市)などが2001年、北海道浜頓別町に日本で初めて市民出資による風車を建設。以降、10年までに北海道のほか青森、秋田、茨城、千葉、石川各県に計12基の風車を建設した。
 風車には出資者の名前が記され、公募で「はまかぜちゃん」、「風こまち」といった愛称もつけられ、環境教育の場としても活用されている。
 長野県などでの太陽光発電事業への市民の出資を募集してきた東京の「おひさまエネルギーファンド」は今、市民出資で富山県内に小水力発電所を建設することを目指し、出資者を募っている。(文・写真 井田徹治、文中敬称略)=2011年09月21日  

「地球村」の人びとは今、何を喜び、なにゆえに悲しみ、日々の暮らしを送っているか。「@LOVE」では世界各地のラブストーリーを紹介。このほか「@コリア」「@チャイナ」「@アメリカ」「@その他地域」と五週を一クールとするこの企画では、地域ごとに主人公やテーマを立て、「今を生きる」人間模様を描く。

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 「サムソ・エネルギー・アカデミー」でのセミナーで、温室効果ガスの排出量を2030年までにゼロにするという島の新たな計画を語るゾーレン(右端)。アカデミーには自然エネルギー開発に関心を持つ人々が世界中からやってくる=デンマーク・サムソ島

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