政治風刺、大ブレーク

毒舌で言論統制に風穴  共産党はガス抜き期待?

 「1年間に(汚職などで)処分を受けた党幹部は十数万人。官僚ほどハイリスクな職業はない」。黒いタキシードに白いシャツ、なで付けた髪。上海の喜劇王、周立波(しゅう・りつは)(44)は、共産党の言論統制下にある中国ではタブー視されてきた「政治」を毒舌で斬りまくり、聴衆を笑いの渦に巻き込む。官僚腐敗に貧富の格差、物価高から、温家宝(おん・かほう)首相の物まねに至るまで「話せないネタはない」。

波瀾(はらん)万丈

 小さいころからお笑いが好きだった周は、14歳で上海の劇団に入り伝統漫才の勉強を開始。漫才の各派を融合した独自の笑いが受け、デビューしてすぐの20歳そこそこで売れっ子となった。
 しかし数年後、交際に反対する女性の父親を殴って失明させ、刑務所行きに。懲役3年、執行猶予4年の二審判決が確定し出所したが、猶予期間中は舞台に立てず、商売を始めた。
 不動産に金融、広告。舞台を離れてからは香港や広東省、遼寧省など各地を転々とした。2001年から1年間、姉のつてで大阪にも滞在した。午前6時に寝て、午後1時に起き食料の買い出しに行く生活。「仕事もせず、ただ人生について考えた。商売を続けるか、舞台に戻るか」
 06年12月、十数年のブランクを経て上海で復帰。何より舞台への未練は捨てがたく、テレビで放映される「低級でお粗末な漫才」も見ていられなかった。「誰もやらないなら、自分が本物のトークショーを見せてやる」。人気芸人の復活に600席の劇場は初回から満員となった。
 舞台を離れたことは後悔してない。「あの時の経験があるからこそ今の自分がある」と信じる。
 「食品安全問題に偽薬。中国人はホラー映画を見る必要はない。生活自体が恐怖だ」「中国政府は清廉潔白だ。ただ政府の中の人間が良い人間とは限らない」
 2時間の公演で起きる笑いは600〜700回。「上海の知的コント」との意味を込めて名付けた「海派清口」というスタイルは、上海の中間層を中心に大ブレーク。昨年のチケット売上高は約1億元(約13億円)に上り、680元のチケットが闇では3千元で取引される。

 シニカルな政治風刺は規制対象になるのではないかと心配になるが、党から「指導」を受けたことはない。「ネタにタブーはないが、宗教と、本当の意味での政治には触らないのが最低限のルール。私が(ノーベル平和賞を受賞した服役中の民主活動家)劉暁波(りゅう・ぎょうは)を取り上げないと、当局も分かっている」
 「上海の周立波は私をからかったが、心穏やかに受け入れた」。香港メディアによると、温首相は自らの物まねをした周を容認。共産党の李長春(り・ちょうしゅん)政治局常務委員(思想・宣伝担当)も「周立波現象は研究の価値がある」と述べたという。
 上海のメディア関係者は「周立波は社会の不満を巧妙に笑いに変える。当局が容認するのは、生活に満足している中間層のファンが多いこともあるが、庶民のガス抜きを期待してではないか」と分析する。

不満を代弁

 周は徹底した勉強家だ。党機関紙の人民日報をはじめとする新聞14紙を毎日3〜4時間かけて目を通し、ネットでの情報収集も欠かさない。iPad(アイパッド)を片時も離さず、ひらめいたことは忘れないようすぐに書き留める。
 「ただのお笑いではない。不動産バブルの背景は何か、経済成長が幸せなのか。観客が舞台を見た後、ふと考え込むような新たな視点を与えることができたら…」
 飲酒運転事故の厳罰化や、多発する炭鉱事故への対応。庶民の不満を代弁しテレビで提言した内容が、民生重視を掲げる政府の政策に不思議と一致したケースもある。「私の番組を見て法律を制定してるんじゃないかと思うよ」と笑う。
 最近は北京を訪れ、人民解放軍や中央社会主義学院など党幹部らの前で公演することもある。
 「私は愛国主義者。共産党員ではないが、党員以上に党員だよ」。真面目な顔で言い放つ。ぎりぎりで一線を越えない絶妙なバランス感覚。上海の喜劇王はしたたかに世相を斬る。

吉本興業も中国に進出

日本の笑い、ファン拡大

 中国・上海には日本の吉本興業も進出、中国人のお笑い芸人が出演する「中国版吉本新喜劇」の定期公演を行っている。公演は上海語と北京語に分け、台本や演出は中国風にアレンジ。上海の伝統漫才「滑稽」とは異なる日本の「新しい笑い」はファンを徐々に広げている。
 吉本のアジア展開を仕切るのは、上海生まれで日本国籍を取得した高龍太郎(こう・りゅうたろう)(45)。かつて西洋列強の租界が置かれた上海は、政治都市の北京とは違い「新しいものに抵抗がなく、笑いのツボも日本に近い」と話す。
 ただ、同じ喜劇でも吉本は芸人の個性や持ちネタを生かすのに対し、中国では個性を消して劇中の登場人物を演じるのが大きな違い。芸人の持ち味を演出に生かすのが最も難しいという。
 中国では貧富の格差など社会不満がうずまいている。共産党関係者から「庶民にもっと笑いを」と依頼されることがあると高。体制側も「笑いがもたらす不満緩和効果」に注目し始めているのかもしれない。
 今秋には北京にも進出、伝統漫才から飛び出した地元の若手お笑い集団と吉本新喜劇を上演する予定だ。上海でも提携関係にある上海メディアグループと協力、中国人芸人らが出演する通販番組の放送を開始する。高は「中国は伝統漫才が主流でお笑いはまだ遅れている。可能性がある分野だ」と意気込んでいる。(文 花田仁美、文中敬称略)=2011年06月22日

「地球村」の人びとは今、何を喜び、なにゆえに悲しみ、日々の暮らしを送っているか。「@LOVE」では世界各地のラブストーリーを紹介。このほか「@コリア」「@チャイナ」「@アメリカ」「@その他地域」と五週を一クールとするこの企画では、地域ごとに主人公やテーマを立て、「今を生きる」人間模様を描く。

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茶葉を収集するのが趣味という周立波が、書斎で雲南省産のプーアル茶を注ぐ。茶具が置かれた机は、さまざまな情報を集めネタを考える静かな場所だ=中国・上海(撮影・京極恒太)

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