人と自然環境に優しく

理想のダイビング普及を  中国海南島で奮闘

 中国南部、海南島のダイビング界で、日本人インストラクター新田篤三(44)の存在を知らない者はいない。中国のレジャーダイビングは海外より大きく遅れて約10年前に始まったばかり。今、草創期を担う中国人インストラクターの多くは、新田の教え子なのだ。
 「人と環境に優しい理想のダイビングを中国に根付かせたい」という熱い思いを抱く。「根っからの体育会系で、脳みそまで筋肉ですけど。ガハハハッ」。気さくな熱血漢「新田先生」を慕って中国人の教え子は集まり「理想のダイビング」について教えを請う。

講習に拍手

 4年前、日本の大手ダイビング企業の駐在員として海南島南部の三亜市に赴任し、支店を設立。当時、中国でただ一人のコースディレクター(国際指導団体PADIが認定した最高位の指導員)として注目を集めた。
 日本人ダイバーを案内し、中国人ダイバーを養成してきたが、2年後には会社を辞める。「本社は、中国の習慣の違いや、まだ発展途上の中国ダイビング界の事情を理解できない。理想のダイビングを広めるには、自分でやるしかない」
 教え子だった劉兵(37)が設立し、社長を務める地元ダイビング企業、中潜に技術総監督、日本事業部代表(取締役)として迎えられ、自分も出資した。中潜のインストラクター約20人は全員が教え子だ。
 「みんな先生を尊敬している。中国語も上手で、普段は冗談を連発するが、講習は厳しく中身は濃い。講習の後は自然と拍手が起きるんだ」。新田の技術力と劉の経営手腕により、中潜はライセンス発行数で中国トップ級のダイビング企業に成長した。国民生活が豊かになるにつれ、中国のダイバーも増えている。
 広島県尾道市生まれ。国際武道大学体育学部(柔道専攻)を卒業後、就職したが「これからは中国の時代」と4年で会社を辞め、北京へ2年間留学。中国の内外を漂流し、海南島も訪ねた。
 「青い海と空とヤシ。浅瀬にもサンゴが密生し、カラフルな熱帯魚が乱舞していた」

 その後、旅行先のタイ・サムイ島でダイビングに出合ってライセンスを取得。1996年に日本に帰国後、インストラクターとなり、国内で約10年間修業を積んだ。そして今「中国」と「ダイビング」という二つのキーワードが重なった。

ハート形サンゴ

 「何もなかった海辺にホテルやマンションが立ち並び、海が汚れたのには、ちょっとがっかりした」。十数年ぶりで海南島に赴任した時の正直な感想だ。だが、郊外へ行けば、サンゴが豊かで透明度の高いダイビングポイントが多数残っていることも分かった。
 三亜市付近はサンゴ自然保護区に指定され、赤や黄、緑のカラフルなサンゴ約80種類が生息。東南アジアに劣らない美しい海域もあり、日本人ダイバーにも好評だ。「残された美しいポイントを守っていきたい」
 しかし、サンゴや貝を持って帰ったり、平気で海にごみを捨てるダイバーもいる。
 ある日、ハート形のサンゴを見つけ、写真をブログに載せた。他のショップから場所を聞いてきたが、サンゴを守るため明かさなかった。何日かすると、別の場所の丸いサンゴがハート形に刈り込まれていた。客の希望に応え、ショップのガイドが切ったらしい。
 「開いた口がふさがらなかった。ダイバーに対し、マナーを守るようきちんと指導できる質の高いインストラクターを養成していかなければならないと痛感した」
 日本で普及に取り組んできた身障者ダイビングを中国でも広めたいと考えている。「目や耳、手足が不自由な人にもダイビングを楽しんでほしい。香港や台湾では既に始まった。中国も北京五輪やパラリンピックを経験し、意識は高まってきていると思う」
 4月、劉の結婚式。劉と新田の周りでは「海と生きる夢」を共有するダイバーたちの乾杯の声が続く。「中国の南の果てで、日中関係を良くするために頑張っていますよ。ハハハハ」。新田がまた豪快に笑った。夢を追い続け、今は独り身だが、最近、海南島ですてきな恋人もできた。

開発と保護、両立が課題

観光客多く建設ラッシュ

 中国の“ハワイ”と言われる海南島には中国内外の観光客が多数訪れ、リゾートホテルやマンションが林立、ゴルフ場の建設ラッシュが続く。経済が発展する一方、サンゴが減少するなどの環境破壊も深刻で、観光開発と環境保護の両立が緊急課題となっている。
 海南島の面積は台湾より少し小さい約3万5千平方キロ。常住人口は約845万人だが、昨年は2500万人を超す観光客が訪れた。新婚旅行に来る中国人も多い。1988年に広東省から独立して海南省に昇格。中国最大の経済特区で、省都は海口市。暖かい南部の三亜市は海洋レジャーが盛んだ。
 中国政府は昨年初め、2020年までに海南島を世界一流の「国際観光島」にする開発プランを発表。島内各地でゴルフ場とホテルの建設がさらに活発化し、不動産バブルも過熱した。
 海南週刊(電子版)によると、リゾート開発でサンゴが急減。地元の研究者、陳宏氏は「一部のリゾート地区付近の水質は悪化、サンゴが折れ、白化する現象が著しい」「海洋資源と生態系の持続的な利用のため科学的に計画して開発するべきだ」と苦言を呈した。
 ゴルフ場建設については、国際環境保護団体グリーンピースも「地元政府は貴重な熱帯雨林など生態系に悪影響を与えないような措置をとるべきだ」と警告している。(文 森保裕、写真 京極恒太、文中敬称略)

「地球村」の人びとは今、何を喜び、なにゆえに悲しみ、日々の暮らしを送っているか。「@LOVE」では世界各地のラブストーリーを紹介。このほか「@コリア」「@チャイナ」「@アメリカ」「@その他地域」と五週を一クールとするこの企画では、地域ごとに主人公やテーマを立て、「今を生きる」人間模様を描く。

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パートナーの劉(右)の結婚披露宴で、新郎新婦を祝福する新田(中央)。お互いに口上を述べ、杯を飲み干す中国式の乾杯を繰り返した=中国・海南島

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