前科53犯から更生支援者に

入れ墨のNGO代表  仲間10人と再出発

 身長190センチ、体重120キロ。元薬物依存者で前科53犯、両腕には竜や花の入れ墨。「殺人と性犯罪以外はだいたいやった」。スウェーデンの首都ストックホルムに住むクリステル・カールソン(60)は「暴力団の組長」と言えば、誰もが信じてしまうような経歴と風貌の持ち主だ。
 実際は自らの経験を生かして犯罪者の更生を支援するNGO「KRIS(クリス)」の代表。元犯罪者ら約5500人の会員を有する組織のトップという意味では組長と似ているが、やっていることは正反対だ。

リベンジ

 スウェーデン南部で生まれたカールソンは、子どものころ学習障害と診断される。だが支援方法がまだ確立していない時代。周囲や教師と衝突し、13歳の時、学校の3階の窓から女性教師を落としてけがをさせ、児童施設に送られる。
 学校と施設から脱走を繰り返し、義務教育課程は修了せずじまい。障害の治療薬で覚せい剤の一種でもあるアンフェタミン欲しさに犯罪に手を染め、18歳で、勤務先の小切手を勝手に使って詐欺罪で少年院へ。
 以来、窃盗や強盗などに加え暴力団との付き合いもでき、53回有罪判決を受けた。「銀行の夜間金庫をダイナマイトで爆破して現金を奪うのが、俺の得意技だったんだ」とカールソン。人生の半分の約30年を少年院や刑務所で過ごした。
 35歳の時に娘が生まれ「俺はいい父親と言えるだろうか」と、更生施設で支援のプログラムを受けるが失敗。10年余り、再犯しては更生施設に行くということを繰り返したが、あるとき更生施設で言われた言葉が転機となった。
 「もうあなたの年齢では無理ですね」。職員に見放されたカールソンは「だったら、俺が自分でやってみせる」とリベンジを決意。その思いはそのままKRISの設立につながり、出所した1997年、元犯罪者や元薬物依存者の仲間10人と更生支援活動を始めた。
 福祉先進国のスウェーデンは、日本に比べれば社会的弱者や脱落者に寛大な国。それでも当然、元犯罪者たちが信頼を得るのは容易ではなかった。資金はどうやって集めたのか。

「それはやっぱり盗んだのさ。…いや、うそだぞ。更生施設の職員や福祉関係者の何人かが、集まる場所を提供してくれて、そこからスタートしたんだ」
 刑務所の門を出た出所者を迎えに行く。「薬の禁断症状が出そうだ」という相談者がいれば、夜中でも駆けつける。活動は口コミで広がり、今や国内に26支部、フィンランドやロシアなど海外に約30支部を持つまでに成長。スウェーデン政府や欧州連合(EU)から受ける補助金は、KRIS本部だけでも、ここ3年間で約1400万クローナ(約1億8千万円)に上る。

同じ目線で

 3月初旬、ストックホルムから北に約70キロのウプサラ支部で、犯罪歴のある少年たちのレクリエーションに顔を出したカールソン。「どれ、おまえのも見せてみろ」と少年の服をめくって入れ墨を見せ合う。
 銃の所持で逮捕された前歴があるアダム(18)は、支部に住み込みで働くボランティア。「犯罪からは足を洗いたいけど、高校には行きたくないからここに来ている」と話す。居場所があることで、再び犯罪の道に戻らずに済んでいる。
 「公的機関の職員と違って、俺たちは同じ目線で同じ言葉を話す。だから支え合うことができるんだ」とカールソン。「他人を助けることは、自分自身を助けること」を信条とし、会員のほとんどは元犯罪者のボランティア。これまで更生を支援した人の8割は再犯していないという。
 終身刑や死刑には反対だ。「俺も何度もだめだったが、53回目でようやく立ち直ることができた。もし途中で終身刑にされていたら、今の俺はない」と訴える。
 「KRIS」の名前はスウェーデン語で「犯罪者の社会復帰」を意味する単語の頭文字から取った。日本人なら還暦だが「不良少年」の雰囲気が残るカールソン。それは、97年のKRIS設立とともに社会復帰を果たし、第二の人生を始めてまだ“14歳”だからかもしれない。

社会復帰になお高い壁

日本は取り組み手薄

 日本での刑務所出所者の更生や就労支援は長年、手薄な状態が続き、近年になって重要性が指摘されるようになったが、取り組みはまだ緒に就いたばかり。社会復帰には高い壁が立ちはだかる。
 法務省によると、仮釈放も含めると年間約3万人が刑務所を出所。満期出所者約1万5千人のうち半数以上は5年以内に再入所している。高齢や軽度の知的障害のため行き場がなく、刑務所に「住まい」を求めて軽い犯罪を繰り返す人も多い。
 法務省と厚生労働省はこうした出所者を福祉施設に橋渡しする「地域生活定着支援センター」を2009年度から都道府県に設置。法務省は11年度、出所者の民間企業への就労を支援する新たな事業も始める方針だ。
 KRISのような当事者団体をつくる動きも出始めている。昨年11月には少年院の出院者らがNPO法人「セカンドチャンス!」を設立。今年1月、カールソンをゲストに招いて設立記念集会を開いた。
 しかし一方で、仮釈放者の更生を支援する国立の「自立更生促進センター」の設置をめぐっては、地元住民の反対運動が起きるなど、難しい問題にも直面している。
 カールソンは「KRISでは薬物だけでなく飲酒も禁じている。信頼を得るには厳しい決まりを守り、『俺たちだってできる』ということを周囲に示す必要がある」とアドバイスを送っている。(文 市川亨、写真 アンドレアス・ディべック、文中敬称略)=2011年03月30日

「地球村」の人びとは今、何を喜び、なにゆえに悲しみ、日々の暮らしを送っているか。「@LOVE」では世界各地のラブストーリーを紹介。このほか「@コリア」「@チャイナ」「@アメリカ」「@その他地域」と五週を一クールとするこの企画では、地域ごとに主人公やテーマを立て、「今を生きる」人間模様を描く。

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スウェーデンのウプサラにある「KRIS」支部で、ビリヤードをする少年たちと触れ合うカールソン(右から2人目)。新しい仲間と新しい居場所をつくってやることで再犯を防ぐ

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